August, 21, 2015, 仙台--東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の山岡一樹氏(当時、大学院修士課程)と寺門信明助教、高橋儀宏准教授、藤原巧教授らは、熱処理した酸化物ガラスから得られる多結晶体セラミックス(結晶化ガラス)において、スイッチングや変調など、光の自在な操作を可能とする”ポッケルス効果” の発現に成功した。
開発に成功した結晶化ガラスは、同グループにより実用レベルの光透過性がすでに達成されており、さらに今回の研究成果によって、安価で量産性に富み、かつファイバ形状への成形性に優れるというガラス材料の特徴に加え、結晶機能も同時に活用することが可能となった。このように、結晶化ガラスはガラスと結晶という全く異なる構造を有する両材料の特徴を併せ持つ画期的な材料であり、これまでの結晶デバイスに置き換わり、ファイバネットワークとの整合性の高い革新的なアクティブ光ファイバ型デバイスなど、新デバイス開発や高度機能化が大いに期待される。
藤原巧教授のグループでは、ガラスを結晶化させた多結晶体セラミックスの一種である“結晶化ガラス”の研究を行ってきた。ガラスと結晶の特徴を併せ持つ新しい光デバイス材料として、この結晶化ガラスの材料応用を推進しています。一例として、ガラスファイバにレーザ照射によって局所的な結晶化を施し、アクティブな光制御性を有するファイバ型デバイスが可能であることを世界に先駆けて実証している。また、長さ0.5mmの単結晶ドメイン(幅:約10 µm)の集合体として緻密かつ高い配向性を示す組織構造から成る“完全表面結晶化ガラス”の創製に成功した。前駆体となるガラスは、ポッケルス効果を有するフレスノイト型Sr2TiSi2O8結晶に加えて、ガラス形成に必要なSiO2を過剰添加した組成によって得られる。それを熱処理することで結晶化ガラスが創製されるが、試料全体を機能材料とするために、光機能性に寄与しない過剰成分であるSiO2を、単結晶ドメイン中にナノ粒子化して取り込むという先駆的なナノ結晶化テクノロジーがこの材料には適用されている。さらに、結晶とガラスの間で屈折率が整合するように調整することで境界面の光散乱が最小となるようにデザインされている。
現行のニオブ酸リチウムによる光スイッチでは、この光学結晶を電極で挟み込み、外部から電圧を印加することでポッケルス効果を介した屈折率変化により信号光強度・位相を変化させる。研究チームの研究でも、得られた完全表面結晶化ガラスを切削加工し、試料上下に電極を固着することで基本的なポッケルス効果型デバイスを構築した。結晶化試料領域に信号光であるレーザ光を入射し、電圧(三角波)を印加した結果、明瞭な信号強度の変化を観測することに成功した。また光スイッチの性能を表す指標の一つであるポッケルス定数はr31=2.7pm/V、r33=2.3 pm/Vと見積もられ、通常の単結晶材料と比較して信号光の偏光依存性が著しく小さいことが明らかとなった。これは、この結晶化ガラスが持つ結晶では到底ありえない特異な分極構造に由来しており、実用的にも偏光方向に依存しない等方的な光制御が可能であることを意味している。結晶材料にはないこの特徴は、偏光方向の変動が避けられない円対称性のファイバ型デバイスを構築する上で極めて有利な材料特性であると言える。このように、多結晶セラミックス材料である結晶化ガラスにおいて、高度な光信号処理が可能となることを実証した。
通常のセラミックスなどの多結晶材料は、材料全体としての結晶方位はランダムであり、さらに結晶界面や欠陥(空孔)の存在により光透過性が低いなど、光波制御デバイスへの応用は極めて限定的で、安価・量産型ではあるが活用が困難と見なされていた。しかし、研究成果である結晶化ガラスは、多結晶材料でありながらLiNbO3単結晶の光導波路デバイスに匹敵する実用レベルの光透過性を有し、かつシリカをベースとするガラス材料を前駆体とすることから、ファイバや薄膜、大型バルク素子など、加工・成形性がきわめて容易で、さらに安価かつ大量生産性に優れるという、従来の結晶デバイスの限界を打破する全く新しい光波制御デバイスの開発を促進することが期待される。
(詳細は、www.tohoku.ac.jp)