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産総研、リチウムなどの軽元素を原子レベルで可視化

August, 19, 2015, つくば--産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門、末永和知首席研究員と同部門電子顕微鏡グループ 千賀亮典研究員は、低加速電子顕微鏡を用いて、リチウムを含む軽元素を原子一つ一つの精度で可視化することに成功した。
 リチウムはこれまで電子顕微鏡で観察することは困難とされてきた。今回、リチウム原子を微細な空間に閉じ込め、低加速電子顕微鏡によるイメージングと電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いた元素分析を同時に行うことで、リチウム原子一つ一つを可視化することに初めて成功した。またリチウムと同様に、電子顕微鏡で観察することが難しかった、塩素、ナトリウム、フッ素についても原子一つ一つを可視化できた。
 低加速電子顕微鏡とEELSを組み合わせてリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、フッ素(F)、塩素(Cl)の単原子を分析した。これらの元素は反応性が高く、通常は他の元素と結合した化合物の状態で存在する。化合物中のこれらの軽元素を電子顕微鏡で観察しようとすると、軽元素が電子線ではじかれて、化合物は簡単に壊れる。今回、シールド材料としてカーボンナノチューブやフラーレンを用い、これらの中に軽元素や軽元素を含む化合物を閉じ込めて、電子線のダメージを減らした。さらに、単原子を捉えるために化合物を原子一列または二列の幅まで薄くした。それぞれの原子鎖の構造モデルと電子顕微鏡像を見比べると、重い元素は明るい点としてはっきり見えるのに対して、軽い原子はほとんど像が見えず、どんな元素か、原子が存在しているかどうかさえわからない。これに対して、今回開発した方法を用いて元素ごとの像と各元素の位置を特定し、従来の電子顕微鏡像と比較すると、重い原子の間に軽元素が存在していることがはっきりとわかる。
 また今回開発した方法では、軽元素位置の特定だけでなく、各原子の化学的な性質も理解できる。例として状態の異なるリチウムについて、EELSで得られるリチウムの信号を比較すると、結合相手の数によって信号に違いがあることがわかる。このようにEELSで得られる信号の形やピークの位置から、軽元素の化学的状態(どの元素とどのように結合しているのかという情報)がわかる。これまでは、リチウムの結合相手である別の原子について分析を行い、その結果からリチウムの状態を推測するプロセスが主流であったが、今回の手法では、リチウムなどの軽元素の結合状態を直接分析できる。そのため、化学反応プロセスでのリチウムの状態を従来以上に詳細に理解できる可能性がある。
 今回は、電子線のダメージ低減のためにカーボンナノチューブ等のシールド材料を用いたが、今後はよりダメージの少ない条件での計測方法を開発し、シールド材料のない状態での軽元素観察を目指す。これによって化学反応プロセス中の軽元素の直接観察を実現する。