August, 5, 2015, 福岡--九州大学大学院工学研究院 応用化学部門の君塚信夫主幹教授、楊井伸浩助教、ミラノ・ビコッカ大学(イタリア)のアンジェロ・モングッチ博士の国際共同研究グループは、低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する技術であるフォトン・アップコンバージョンの実用化に不可欠な、太陽光程度の弱い光で効率を最大化する有機―無機複合材料を世界で初めて開発した。
研究グループは、既に分子組織化を利用し溶液中で高効率なアップコンバージョンに成功していたが、そこでは困難であった溶媒を含まない固体中での高効率化に今回成功した。
フォトン・アップコンバージョンは、太陽電池や人工光合成の効率を飛躍的に向上するなどの再生可能エネルギー技術への応用が期待されており、学術的のみならず産業的にも大きな波及効果をもたらす成果。
研究グループは、金属錯体骨格(MOF)という結晶性材料中にアクセプター分子を規則的に配列させ、MOFを用いたアップコンバージョンを世界で初めて成功させた。
これまで、太陽光のような弱い光を用いたアップコンバージョンの高効率化は困難を極めており、その実現には①いかにドナーからアクセプターに励起三重項エネルギーを効率よく移動し、かつ②その励起三重項エネルギーをアクセプター分子間で高速に拡散させるか、といった2つの課題をクリアする必要があった。まず1つ目の課題に関しては、これまで固体状態ではドナー分子が凝集し、アクセプター分子にうまくエネルギーを渡せていなかったが、MOFのナノ結晶を合成し、そのナノ結晶表面をドナー分子で修飾するというコロイド・界面化学的な新しいアプローチを導入し、この問題を解決した。さらに2つ目の課題に関して、これまでは柔らかいポリマ中に色素を分散するという方法が一般的だったが、十分な色素の拡散速度を得ることができなかった。今回、MOFの構造中にアクセプター部位(ジフェニルアントラセン)を規則的に配列させることで、励起三重項エネルギーを高速に拡散させることに成功した。2つの課題を新しい手法により解決し、太陽光程度の弱い光でもアップコンバージョンの効率を最大化(約2%)することに世界で初めて成功した。
また、分子を拡散させる既存の手法では力学特性の劣る柔らかい高分子しか用いることができなかったが、今回開発したドナー修飾MOFナノ粒子はポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの力学特性に優れた硬いプラスチック中に分散させて用いることが可能であり、汎用性の高いプラスチック材料を高機能化して再生可能エネルギー分野に応用する新たな道を拓いた。