July, 29, 2015, つくば--NIMSとルーヴェン・カトリック大学(Katholieke Universiteit Leuven)の研究者で構成される研究チームは、鉄系超伝導体に添加した微量の亜鉛元素が超伝導対を破壊することを確認した。
物質・材料研究機構(NIMS)超伝導物性ユニットの李軍(元NIMSジュニア研究員)、王華兵(主幹研究員)、山浦一成(主席研究員)とルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)の研究者らからなる研究チームは、鉄系超伝導体に添加した微量(3%)の亜鉛元素が超伝導対を破壊することを確認した。この成果は、鉄系超伝導体のメカニズムの解明にむけた大きな一歩であり、高性能な超伝導材料の開発への貢献が期待される。
鉄系超伝導体に関する研究は世界的に推進されているが、超伝導状態が発現するメカニズムについて十分なレベルで解明されていないのが現状。特に、微少量(数%)の不純物によって超伝導がどのように変化するか(不純物効果)を正確に観測することは、超伝導発現機構の解明に向けて重要だと考えられている。鉄系超伝導体の結晶に亜鉛を微小量(数%)添加すると、その添加量に依存して超伝導転移温度が低下することが、これまでの研究で明らかになっていた。しかし、その転移温度の低下が理論的に予見される超伝導対の破壊によるものか、あるいは、結晶の乱れの程度が増加したことによる、何らかの影響によるものかが明確ではなかった。
研究チームは、亜鉛を3%含有する鉄系超伝導体の結晶に微細加工を施して100nm四方程度の断面を持つ極めて微小な棒状結晶を作成した。この棒状結晶を冷却して、電圧-電流特性を調べ、規則的なステップを伴う超伝導転移を観測した。一方、亜鉛を添加しなかった場合では、超伝導の通常の一段転移を観測され、亜鉛を添加した結晶では超伝導の領域が大幅に狭まっていることが示唆された。全ての実験結果を解析・考察した結果、結晶中の亜鉛元素を中心とする局所的な非超伝導領域が生まれ、それが点在するため、実質的な超伝導領域が空間的に大幅に狭まり、超伝導の量子的な特徴が顕在化したと考えられる。つまり、結晶に添加した亜鉛元素が超伝導対を破壊する様子を間接的に観測したことになる。
鉄系超伝導体の転移温度が、数%程度の亜鉛の添加量に依存して低下したこれまでの観測結果は、何らかの結晶の乱れの影響などではなく、亜鉛元素が直接的に超伝導対を破壊したことが支配的な要因だと考えられる。少なくとも、亜鉛元素が局所的に超伝導対を破壊することが確かめられた。この実験結果は、鉄系超伝導体の発現機構解明に向けた着実な一歩であり、高性能な超伝導材料の開発、社会的要請が高い超伝導基盤技術の確立に貢献する。