July, 22, 2015, 山形--山形大学 大学院理工学研究科の千葉貴之助教、夫勇進准教授、城戸淳二教授らは、塗布印刷プロセスによるタンデム構造を持つ白色リン光有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の開発に成功した。
有機ELの製造プロセスの一種である塗布印刷プロセスは、真空プロセスと比較して製造コストや環境負荷の削減、生産スピードの向上と大面積成膜が可能で、ディスプレイや照明用途への応用が期待されている。また、有機EL素子の普及には、発光効率や耐久性の改善が必要であり、複数のELユニットを中間電極を介して直列に接続したタンデム構造に注目が集まっている。
研究チームは、発光層の耐溶媒性を改善し、さらにリン光材料を用いることで大幅な発光効率の向上に成功した。低分子リン光発光層に高分子バインダーを少量添加し、上層の塗布溶媒を適切に選定することで耐溶媒性の向上を実現。さらに、中間電極の導電性高分子材料を中性化することで、耐酸性の低い酸化亜鉛ナノ粒子との積層構造を可能にし、タンデム構造を実現した。発光スペクトルおよび駆動電圧は各ELユニットの足し合わせを示し、外部量子効率28%・電流効率69cd/Aの塗布型白色素子における世界最高効率を達成した。
高い発光効率を持つ低分子リン光層は耐溶媒性が低いことから、タンデム有機EL素子への応用が困難だった。このため、今までに開発してきた塗布型タンデム有機ELでは、塗布溶媒により下層が溶けないようにするため、発光層には耐溶媒性の優れた蛍光性高分子材料を使用していた。
研究チームは、低分子リン光発光層と中間電極として用いた導電性高分子材料のPEDOT:PSSの積層技術を確立し、以前開発した有機溶媒への溶解性制御による低分子塗布有機EL素子技術をタンデム構造に応用することで、タンデム白色リン光有機EL素子を開発した。低分子ホスト材料(TCTAおよび26DCzppy)とリン光材料からなる発光層へ高分子バインダー(PVK)を少量添加することにより、水とアルコール混合溶媒への不溶化を実現。続いて、中間電極として各ELユニットへ電荷を供給する役目を果たすPSDOT:PSSを水:アルコール混合溶媒に分散させ、発光層を溶かさずに塗布積層できた。さらに、PEDOT:PSSは発光層の塗布溶媒であるテトラヒドロフランに不溶性を示し、中間電極の下層に位置する発光層への浸透を防ぐ。また、電子注入層である酸化亜鉛ナノ粒子は、耐酸性が低いため、酸性であるPEDOT:PSSとの積層化が困難でしたが、水酸化ナトリウムによりPEDOT:PSSを中性化し、酸化亜鉛ナノ粒子との積層構造を可能にした。
これらの発光層、中間電極、電子注入層を用いて作製したタンデム構造を有する塗布型白色リン光有機EL素子は、積層した各ELユニットから青色および緑・赤色発光が得られたことから、中間電極から各ELユニットへ適切に電荷が供給されていることを明らかにした。駆動電圧および発光効率についても同様に各ELユニットのそれぞれの値を足し合わせた値が得られ、実用水準輝度5000cd/m2において世界最高水準の外部量子効率28%・電流効率69cd/Aを達成した。これまで、蛍光性高分子材料に限定されていた塗布型タンデム有機EL素子(外部量子効率6%~程度)において、各機能層の溶解性や酸性度を制御することにより、初めて低分子リン光材料を用いた塗布型タンデム有機EL素子の開発に成功した。