Science/Research 詳細

世界初、ヘテロジニアス波長可変レーザの開発に成功

May, 14, 2015, 仙台/東京--東北大学大学院工学研究科 北智洋助教、山田博仁教授及びNICT 山本直克光通信基盤研究室室長の共同研究グループは、広い波長可変範囲を持つ超小型の波長可変レーザの実現に世界で初めて成功した。
 このレーザは、東北大学においてシリコンフォトニクスを用いて開発した高い波長選択機能を持つ超小型の波長可変フィルターチップと、NICTの独自技術で開発した量子ドットを用いた光増幅器チップとを効果的に組み合わせることで実現した。このようにして実現された波長可変レーザは、従来デバイスの数百分の一のサイズでありながら、広い可変波長範囲を持つ。このレーザの実現により、光通信システムの更なる大容量化、低消費電力化を図ることが期待される。
 開発成果は、米国サンノゼにおいて開催される国際会議The Conference on Lasers and Electro-Optics (CLEO)において2015年5月13日に発表され、また関連研究がApplied Physics Express誌に近日中に掲載予定。
 これまでに東北大学の研究グループでは、トランジスタなどの電子集積回路に用いられてきたシリコンとその製造プロセスを利用することで、非常に小型で高機能な光デバイスを低コストに実現することが可能となるシリコンフォトニクス技術の研究開発を進めてきた。一方でNICTでは、独自に開発した高密度・高品質自己形成量子ドット作製技術を応用することで、従来の光通信技術で用いられてきた波長1.55 µm帯よりも短い波長1.0 µm~1.3 µmにおいて動作する広帯域光デバイスの開発を進めてきた。
 研究チームは、シリコンフォトニクスと量子ドット技術という二種類のナノテクノロジーを効果的に融合し、それぞれの長所を生かすことで従来にない超小型でありながら広い波長範囲で使用できる波長可変レーザの開発に成功した。それぞれの技術は製造方法や材質が異なるために、従来は一体化が困難だったが、両者を効率よく結合する技術の開発によって世界で初めて波長可変動作が可能になった。
 チップは、幅400 nm×高さ220 nmの非常に微細なシリコン細線光導波路によって構成された2つのリング共振器によって特定の波長のみが選択される波長フィルタの役目をはたしており、チップ上に形成したマイクロヒータによって選択波長を自由に制御することが可能。この波長可変フィルタチップと量子ドット光増幅チップとを結合させたものがヘテロジニアス(異種材料集積)波長可変レーザ。このようにして開発した波長可変レーザは、従来の量子ドット波長可変レーザでは数cm角程度の大きさが必要だったのに対して3mm×1mm程度と非常に小型であり1.200~1.244 µmの波長範囲で良好な波長可変動作を示した。このように面積にして数百分の一以上の小型化が達成され、消費電力や応答速度も大幅に低減された。
 今後、開発したヘテロジニアス-シリコン/量子ドット超小型波長可変レーザの波長範囲をさらに広げていくことで、光通信システムの更なる大容量化が可能になる。超小型・低消費電力でありながら光通信の情報量を飛躍的に増大させる可能性を持つ本波長可変レーザは、今後のビッグデータの利活用などによって急激に増加する情報通信を根底で支えるキーデバイスとなることが期待される。