December, 16, 2025, Sydney--シドニー大学の研究者たちは、マイクロチップスケールのレーザに長年抱えていた問題を解決し、光学キャビリティに「小さなスピードバンプ」を彫り込み、非常に「クリーン」な光を生み出すことを目指している。この極めて狭いスペクトルの光は、将来の量子コンピュータ、高度な航法システム、超高速通信ネットワーク、精密センサに利用される可能性がある。
新たな研究では、ブリルアンレーザ(Brillouin lasers)の重要なノイズ源を除去する方法を示した。ブリルアンレーザは、その卓越した純度で知られる特殊な光源で、ほぼ完璧な単一波長(色)の超狭スペクトルを生成する。
電球のような光源から発せられる光は広い波長スペクトルを持ち、日常使用には問題ないが、レーザが必要な精密な科学的目的ではノイズが多すぎる。
ブリルアンレーザは非常に純粋な光を発生させ、数千年で数秒しか遅れない光原子時計に使える。しかしこれまで、ブリルアン・カスケード現象によってその可能性が制限されてきました。これは光の「寄生モード」の出現、性能低下となる現象である。
「ブリルアンレーザは最もコヒーレントな光源の一つであり、チップスケールで作ることも可能だ」と、シドニー大学ナノ研究所・物理学部のPh.D学生、Ryan Russellはコメントしている。同氏は筆頭著者である。
「しかし出力を上げようとすると、複数の寄生モードに分裂する傾向がある。これらの追加モードはノイズを加え、使いたい基本モードからエネルギーを奪う。多くの実世界の応用においては、それはかなりの問題である。」
レーザーのスピードバンプ
この問題を解決するために、シドニーチームは「フォトニックバンドギャップエンジニアリング」に着目した。レーザの光学キャビリティの内側に直接、人間の髪の毛の100分の1以上小さいナノスケールの特徴を焼き付けることで、研究チームは寄生モードの発生を起始点で阻止しつつ、一次モードを妨げない正確な「デッドゾーン」を作り出した。
これらの特徴は「ブラッグ格子」と呼ばれ、オーストラリアの父子科学チームであるWilliamとLawrence Braggブラッグにちなんで名付けられた。彼らは共に1915年のノーベル物理学賞を共に受賞した。
「これは光のレースコースに小さなスピードバンプを彫り込んで、ノイズの多い副産物の形成を防ぐようなものだと考えるとよい」と、同じくシドニー・ナノに所属し、ARCブレイクスルー科学のための光学マイクロコームセンター(COMBS)の研究者でもあるDr. Moritz Merkleinは語っている。
「簡単に言えば、われわれはカスケードが始まる前に制御する方法を学んだ。フォトニックバンドギャップは、これらの寄生モードが動作するために必要な状態の密度を除去する。利用可能な状態がなければ、寄生的なプロセスは起こらない。まるで宇宙の真空に向かって叫ぼうとしているようなもので、音はどこにもトドかない」とDr. Merkleinコメントしている。
論文はAPL Photonics誌に掲載されている。
その結果は驚くべきものである。ブラッグ格子がデッドゾーンを誘導すると、チームはブリルアンレーザの最小閾値が6倍に増加することを観測した。これはレーザ放出を励起するのに必要な最小エネルギーである。カスケード現象を抑制したことで、研究チームは基本的なレーザ出力が2.5倍に増加し、この手法がより高い性能を引き出すことを直接示した。
デバイスを再製造する必要はない
重要なのは、ブラッグ格子が再構成可能である点である。レーザ光だけで書き込み、消去し、再調整が可能で、装置を再製造する必要はない。これにより、チップスケールのレーザを低ノイズの「シングルモード」またはカスケード型の「マルチモード」動作にオンデマンドでプログラムすることが可能になる。
「これはブリルアンレーザの修理だけではない。これはフォトニックチップ上の光学プロセスを制御するための一般的な枠組みである」(Mr Russell)。
このフォトニックチップを通過する光を制御する方法は、よりクリーンな量子光源や周波数のコームレーザの実現につながるはずである。
これらは通信やGPSなどの高度なナビゲーション技術に新たな応用が見られる。
シドニー大学の研究グループリーダーでありCOMBS主任研究者のBen Eggleton教授は、「共振器内の状態密度を工学的に設計する能力は、全く新しい光源のクラスやその他の先進的なフォトニック技術への扉を開く」と話している。
Dr.Merkleinは次のように話している。「われわれがより複雑な光学システムを小型チップに搭載し続ける中で、この新たな制御のレベルを持つことは極めて重要だ。それによって、これらの装置をこれまで立ち入り禁止だった領域に導入できるようになる。」
この研究は、オーストラリアが集積フォトニクス分野でのリーダーシップを浮き彫りにし、次世代の量子および通信技術のための超安定・高出力・低ノイズのチップスケールレーザへの新たな道を示している。