December, 12, 2025, 千葉--千葉大学、東北大学、北海道大学の研究チームは、光の波面に複数の渦が同時に存在する多重光渦を物質に転写して構造として可視化することに成功した。また光のスピン角運動量と軌道角運動量のベクトル合成(光のスピン軌道相互作用)の効果により、渦の大きさや位置が大きく変化することを見出した。
この結果は、一つの光で多数の微小物質を同時に捕捉・輸送・回転・操作できる光マニピュレーションの新たな技術として、渦の物理学、キラリティー化学など、非常に幅広い分野での応用が期待される。
【研究の成果】
研究では、グリーンレーザ光の波面を空間変調器によって精密に制御し、異なる軌道角運動量を持つ2つの光渦を組み合わせた「多重光渦」という特殊な光を発生させた。さらに、1/4波長板を使用して、光を「円偏光多重光渦」に変換した。
さらに、光に反応して分子が移動して形を変える光応答性高分子材料「アゾポリマ」に、発生させた円偏光多重光渦を照射した。多重光渦の中央にアゾポリマの突起ができた。また突起のすそ部分は、ねじれた螺旋を描いていた。軌道角運動量の絶対値の大きな方の光渦の軌道角運動量の符号とスピン角運動量の符号は同じである。螺旋の向きは軌道角運動量の絶対値の大きな方の光渦の軌道角運動量の符号で決まる。さらに螺旋を描く腕の数は2つの光渦の軌道角運動量の差で決まることも分かった。突起の位置における電磁場をコンピュータシミュレーションで解析すると、突起の位置が渦に対応することが分かいった。つまり、形成されたアゾポリマの突起は渦の場所と角運動量を表していることになる。
また光の回転方向(円偏光の向き)を変えると、多重光渦の中央部の突起が消滅し、周辺に複数の突起が現れ、螺旋を描いていた腕はまっすぐに伸びた(腕の数は変化しない)。円偏光の向きによらず、多重光渦の光強度分布は変化しない。これは光の「スピン軌道相互作用」と呼ばれる効果によるもので、多重光渦の中央部の渦が消滅し、多重光渦の周辺部に新たに複数の渦が生成したことを意味する。すなわち、光の渦がアゾポリマのような光感受性を有する物質の質量移動を介して顕在化・可視化できたことになる。
【今後の展開】
この研究により多重光渦による物質操作の可能性が分かった。円偏光の向きによらず多重光渦の光強度分布は変化しない。しかし、光の波面における渦の存在する場所は、光のスピン軌道相互作用の効果によって大きく変化する。その光の渦の大きさや場所がアゾポリマのような光感受性を有する物質の質量移動を介して顕在化・可視化できたことになる。これにより、多数の微小物質を同時に捕捉・輸送・回転・操作できる光マニピュレーションへの応用が期待される。
また複数のねじれた突起構造を同時に生成する物質加工、さらには物質科学における渦の生成消滅過程や渦同士の相互作用の解明につながる基礎研究にも、貢献することが期待される。
研究成果は、2025年11月18日に、学術誌Nanophotonicsで公開された。
(詳細は、https://hikarikinou.apph.tohoku.ac.jp/1699/)
研究チーム
千葉大学大学院工学研究院の尾松孝茂教授、千葉大学分子キラリティー研究センターの平山颯紀特任助教と、東北大学大学院工学研究科の小野 円佳教授、木崎和郎助教、赵 君婕 (Zhao Junjie) 学振外国人特別研究員と北海道大学電子科学研究所の田口 敦清准教授