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メタマテリアルを実装した光変調器開発に成功

April, 2, 2015, 東京--東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの雨宮智宏助教と荒井滋久教授、理化学研究所の田中拓男准主任研究員、岡山大学自然科学研究科の石川篤助教らの共同研究グループは、インジウム・リン(InP)系光通信プラットフォームに “透磁率”の概念を導入することに世界で初めて成功した。
 InP系マッハツェンダ(MZ)光変調器をベースとして、デバイス内部に特殊なメタマテリアルを実装。電圧印加に伴う透磁率の変化を利用して、透過光の強度を変調することに成功した。ナノスケールの金属構造で構成されたメタマテリアルに3次元トランジスタの技術を組み合わせることで、光周波数帯において電圧印加による透磁率の制御を可能とした。
 現在の光通信デバイスは“誘電率”の制御によって、所望の動作を得ているが、そこに透磁率の概念を加えることで、既存技術を凌駕する小型かつ高性能なデバイスが実現可能となる。開発した技術は、光変調器に限らず光通信プラットフォームにおいて広く利用できるため、将来、さまざまなデバイスへの応用が期待される。
 すべての物質は、その物質を特徴付ける何らかのパラメータを持っているが、誘電率と透磁率の2つの概念は、電磁波(光)にとって特に重要。とは言え、一般的な光通信の教科書には誘電率の記述はあるものの、透磁率については一切登場しない。これは「光通信で用いるような高周波の光にとっては、すべての物質の比透磁率は1である」という純然たる事実が存在するためである。裏を返せば、現在の光通信では、本来であれば制御できる可能性のあるパラメータをまったく利用していないことになる。
 従来の光通信で用いられているレーザや変調器、光スイッチなどの各種デバイスは、主にInP系の材料でできているが、このプラットフォームにおいて、前述の「透磁率一定」の制約を超えることは、大きな意味を持つ。特に以下の2点において、光通信の世界に新たなフロンティアを拓くことに寄与する。

1. 既存デバイスの大幅な小型化・高性能化
誘電率と透磁率、2つのパラメータを同時に制御することで、本来、屈折率の可変幅が狭いInP系デバイス内において、極めて大きい屈折率変化を持たせることが可能となる。これは、既存デバイスの大幅な小型化・高性能化に繋がる。
2. 既存技術の枠組みを超える性質を実装可能
誘電率と透磁率を適当な値に設定することで、負の屈折率に代表されるような従来技術の枠組みを超えた性質をInP系プラットフォーム上に作り出すことが可能となる。この応用先として、光メモリーや光無線アンテナなどが考えられる。
 研究グループは、光通信で最も一般的なInP系プラットフォームにおいて、透磁率の概念を導入することに世界で初めて成功した。InP系マッハツェンダー光変調器[用語5]をベースとして、デバイス内部に特殊なメタマテリアルを実装。電圧印加に伴う透磁率の変化を利用して、透過光の強度を変調することに成功し、デバイスの大幅な小型化が可能であることを示した。

キーとなる主な成果は次の2つ。
1.トライゲート(Tri-gate)メタマテリアル: InP系化合物半導体上に浅い溝を掘り、その内部にナノスケールの金属構造を作りこむことで、電圧制御が可能な特殊なメタマテリアルの開発に成功。この構造では、上部から電圧を印加することで、半導体内のキャリア密度を変化させることができ、それに伴って金属微細構造の応答(=メタマテリアルの特性)に変化が生じる(キャリア発現の原理は3次元トランジスタと同一)。これにより、電圧印加の有無によって、透磁率の値を制御できることになる。
2.メタマテリアル集積型MZM: トライゲートメタマテリアルの技術を光通信デバイスへ実装することで、「透磁率制御によるメタマテリアル装荷型変調器」を実現。この素子は、マッハツェンダー干渉器の各アームにトライゲートメタマテリアルが一列に埋め込まれた構造となっており、素子上部から電圧をかけ、アーム部の透磁率を変化させることで強度変調を行う。

 透磁率を制御することで、本来、屈折率の可変幅が狭いInP系デバイス内において大きな屈折率変化を持たせることが可能となり、200µmのデバイス長において約7.0dBの変調特性を得ることに成功。誘電率と透磁率を両方使うことにより、さらなる高性能化を図ることができ、将来は、実用化されている既存デバイスと同じ性能を維持しながらサイズを1/100程度まで小型化できることが予想される。