September, 26, 2025, 大阪--量子科学技術研究開発機構(QST)関西光量子科学研究所(「関西研」)の福田祐仁上席研究員、大阪大学大学院工学研究科の蔵満康浩教授、神戸大学の金崎真聡准教授らの研究チームは、国内最大の極短パルス・超高強度レーザである、QST関西研のJ-KAREN-Pを活用することで、レーザを用いた炭素イオン加速として1ギガ(G=109)電子ボルトの大台に到達した。
QST関西研では、重粒子線がん治療装置の小型化などを見据え、レーザ光の像転送システムの開発・導入などJ-KAREN-Pの高度化を進め、レーザ光を従来比の150 %の高い強度で照射することが可能となった。さらに、この研究チームで確立した、シート状物質グラフェンを積層した上に、厚みをナノメートル精度で制御した金を蒸着する技術を確立してJ-KAREN-Pに最適なターゲットを作成した。これらの相乗効果により、高効率の炭素イオン加速を実現した。1ギガ電子ボルトは、極短パルスレーザによる炭素イオン加速において世界最高エネルギーに相当する。
この成果は、炭素イオンを用いる重粒子線ガン治療に必要なエネルギー(約5 ギガ電子ボルト)に向けた大きな進歩として重粒子線ガン治療装置の大幅な小型化につながるだけでなく、得られた高エネルギー炭素イオンを含むプラズマは、直接観測が難しい宇宙におけるプラズマ状態などを実験的に再現できる可能性がある。
この成果は9月17日の日本物理学会第80回年次大会において、「J-KAREN upgradeを用いた最高エネルギーのカーボンイオン加速」のタイトルで口頭発表された。
研究の内容
QST関西研の桐山博光グループリーダーを中心としたレーザ開発チームは、超高強度レーザJ-KAREN-Pのレーザパルス伝送部に像転送システムを開発・導入し、レーザ装置出口でのレーザ強度分布を劣化させずにターゲット手前の集光ミラーに伝送することに成功し、集光条件の大幅な改善とともに、伝送可能なレーザパルスエネルギーを従来比150 %に引き上げた高強度レーザ照射を実現した。
ターゲット開発では、台湾国立中央大学W.Y.Woon教授らの協力を得て、大面積かつ原子1個分の厚みのシート状物質グラフェンを複数枚重ねて表面を金蒸着する技術を確立し、ナノメートル精度で厚み・組成を自在に制御することにはじめて成功した。
原子番号が大きく電子を多く含む金は、プラズマ中の電子密度を増し、レーザプラズマ加速の電場強度を大きくする効果をもたらし、高エネルギーのイオン加速を可能とした。今回、レーザ高強度化とターゲット製作技術向上の相乗効果により、極短パルスレーザを用いたイオン加速としては世界最高エネルギーとなる1ギガ電子ボルトの炭素イオン加速に成功した。これは、これまでの記録0.6ギガ電子ボルト(2019年韓国)を大きく更新する成果である。今回開発したターゲット製作技術を用いることで、今後のJ-KAREN-P高度化の進展に合わせ、さらなる高エネルギーの炭素イオン加速が見込まれる。
(詳細は、https://www.qst.go.jp)