August, 20, 2025, 広島--広島大学医学部4回生(研究当時)宮崎夏帆と同学原爆放射線医科学研究所、藤田英明助教、同学大学院統合生命科学研究科安田恭大助教、株式会社宇和島プロジェクト才木康司、および、渡邉朋信教授(理化学研究所生命機能科学研究センター・チームディレクター)らの研究グループは、生物が本来持っている蛍光(自家蛍光)を詳細に解析することにより、鮮魚の鮮度を非破壊的かつ定量的に評価できる可能性を調査し、少なくとも、トラウトサーモン、マダイ、ブリの3魚種に共通する蛍光成分を同定した。
研究成果の内容
研究では、トラウトサーモン・マダイ・ブリの切り身を同一条件下で冷蔵保存し、4種類の波長(275、365、405、455 nm)で励起した自己蛍光スペクトルを時間経過とともに測定した。得られたスペクトルデータに対して、主成分分析(PCA)・非負値行列因子分解(NMF)・非対称ガウス分布によるカーブフィッティングを用いて解析を行い、スペクトルの変化要因を分解・定量化した。
それぞれの手法における特徴と効果を比較検討するとともに、魚種に依存しない共通の変化成分の抽出を試みた結果、特に455 nmの励起条件において、約540 nm付近の蛍光(FAD=フラビンアデニンジヌクレオチドの酸化に由来)が、3魚種すべてにおいて保存時間とともに一貫して増加することが明らかとなった。これは、鮮度の低下(酸化)の進行を示す普遍的な指標となる可能性を示唆している。
一方で、このFAD由来の蛍光の変化と、うま味成分であるイノシン酸(IMP)の生成量との間に明確な相関は認められなかった。これは、IMPの前駆体であるアデノシン三リン酸(ATP)の分解経路と、FADの酸化が異なる代謝経路を経ていることを示しており、自家蛍光スペクトルを用いた「うま味成分」の推定には限界があることが明らかとなった。
さらに、抗酸化成分であるアスタキサンチンを多く含むトラウトサーモンでは、FAD由来の蛍光の増加が抑えられており、抗酸化物質の有無が酸化の進行やスペクトル変化に影響を及ぼすことも確認された。
この研究成果により、鮮度評価の信頼性を魚種に依存せず向上させることが可能となり、水産業全体の品質管理の標準化に貢献することが期待される。
この研究成果は、 2025 年7月25日に国際学術誌「Food Chemistry」 に掲載された。
(詳細は、https://www.hiroshima-u.ac.jp)