July, 29, 2025, 大阪--日本の高度経済成長期に建設された多くの港湾インフラは、建設後50年以上が経過し、老朽化が深刻な社会問題となっている。特に、常に海水や風に晒される港湾の岸壁は劣化が早く、定期的な点検が不可欠だが、従来の手法は専門家による目視点検が中心で、多大なコストと時間がかかるうえに、点検技術者の不足という課題も抱えている。
大阪公立大学大学院情報学研究科の吉田 大介准教授らの研究グループは、高価な産業用ドローンを使うのではなく、地方自治体などでも導入しやすい市販の小型汎用ドローンと、AIの一種である深層学習(DL)を組み合わせ、港湾岸壁を対象とした新しいヒビ割れ自動検出システムを開発した。
このシステムでは、ドローンで撮影した多数の空撮画像から、地図と同じように歪みのない単一の画像「オルソフォト(空中写真地図データ)」を生成する。安価なカメラの解像度でも微細なひび割れを見つけ出すため、画像をタイル状に分割して重ね合わせる「オーバーラッピング・タイリング法」や、画像の縮尺を擬似的に変化させてAIの検出能力を高める「擬似高度スライシング法」といった、独自の画像処理技術を導入した。
その結果、港湾岸壁(コンクリート)の点検基準とされる3mm幅を大幅に下回る1mm幅の微細なひび割れでも、高精度に自動検出できることを実証した。さらに、検出されたヒビ割れには正確な位置情報が付与され、GIS(地理情報システム)上での管理が可能なため、「前回はなかったヒビ割れが、今回新たに出現した」「このヒビ割れは、1年間でこれだけ長くなった」といった、経年変化を定量的に追跡することが可能である。このシステムにより、従来は専門家の経験に頼っていた港湾岸壁の「危険度の判断」や「補修計画の策定」を、データに基づいて科学的に行う「データ駆動型アセットマネジメント」へと導く。
この研究成果は、限られた予算や人員で広大なインフラを維持管理しなければならない地方自治体にとって、持続可能で低コストかつ実用的な新しい点検手法を提供するものであり、国内外のインフラ老朽化対策に大きく貢献することが期待される。
吉田准教授のコメント
「この研究で最も重視したのは、最先端の理論を追求するだけでなく、実際に現場で働く方々が「これなら使える」と実感できる、実用的なシステムを構築することだった。高価な専用機材がなくても、今ある機材とオープンソースの技術を組み合わせることで、ここまで高精度な点検が可能になることを示せたのは、大きな成果だと考えている。今後は、大阪港湾局だけでなく、さらに多くの自治体と連携し、このシステムを誰でも簡単に使えるWebアプリケーションとして提供することで、社会実装を目指していきたい」。
(詳細は、https://www.omu.ac.jp)