July, 28, 2025, 東京--東京大学大学院理学系研究科の塚本萌太大学院生(当時)、肥後友也特任准教授(当時)、佐々木健人助教、中辻知教授、小林研介教授らによる研究グループは、東京大学物性研究所の大谷義近教授、三輪真嗣准教授、理化学研究所の近藤浩太上席研究員(当時)およびスイス連邦工科大学(EPFL)チューリッヒ校のChristian Degen教授、Pietro Gambardella教授らと共同で、八極子秩序のある反強磁性体Mn3Snの磁壁の内部構造の観測に成功した。
反強磁性体の磁区構造は、次世代の高速・省エネスピントロニクスデバイスの鍵となる構造である。反強磁性体は周囲に磁場をほとんど漏らさないという特性から高い集積度が期待されるが、その特性ゆえに、磁区や磁壁といった内部構造の観測が非常に困難だった。
この研究は、高品質なMn3Sn結晶の磁区制御の過程をダイヤモンド量子センサで測定することで、わずかな漏れ磁場の変化から、八極子秩序を保った磁壁の内部構造を明らかにした。この成果は、多極子秩序に関する基礎的理解を深めるとともに、今後のデバイス開発に向けた指針を提供するものである。
研究成果は米国物理学会誌Physical Review BにLetter論文として出版され、さらにEditors’ Suggestionに選定された。
発表のポイント
・反強磁性体Mn3Snにおいて、磁気八極子秩序に由来するキラルな磁壁の構造を初めて実空間で観測した。
・ダイヤモンド量子センサによる高精度磁場測定と高品質単結晶薄膜を組み合わせ、複雑な磁気構造に対応する 解析手法を新たに開発することによって、従来困難だった磁区と磁壁の詳細な構造を解明した。
・この成果は、エネルギー効率に優れた次世代の高速・省エネスピントロニクス素子の実現に向けた設計指針を与え、多極子磁性の理解と応用の深化に貢献することが期待される。
(詳細は、https://apps-images.adm.s.u-tokyo.ac.jp)