Science/Research 詳細

生体内で強い発光と低毒性を両立する量子ドットを開発

July, 17, 2025, 名古屋--名古屋大学大学院工学研究科/名古屋大学未来社会創造機構の鳥本司教授、亀山達矢 准教授(現:信州大学繊維学部化学・材料学科 准教授)、秋吉一孝助教らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構(QST) 量子生命科学研究所/名古屋大学 未来社会創造機構の馬場嘉信所長/特任教授、湯川博 プロジェクトディレクター(PD)/特任教授との共同研究で、近赤外光波長領域で強く発光する新規な多元素量子ドットの開発に世界で初めて成功し、生体深部イメージング用発光プローブとして利用できることを実証した。

研究成果Ag8GeS6多元素量子ドットは、直径約4 nmと非常に小さいAg8GeS6半導体ナノ結晶からなり、低毒性元素のみで構成されている。そのため、バイオイメージングに加え、環境負荷を著しく低減したLED、近赤外光センサ、太陽電池など広範囲な産業応用・展開も期待される。今後の新規光機能デバイス開発を飛躍的に促進させるマテリアルとして注目される。

研究概要
・量子ドットは、強く安定な発光を示すナノ発光プローブとして2023年にノーベル化学賞を受賞して注目されたが、ディスプレイや太陽電池などと比較して、生体イメージング用途の開発は遅れていた。
・硫化銀ゲルマニウム半導体(Ag8GeS6)は、天然鉱物(アルジロダイト)としても存在する安定な材料であり、近赤外波長領域の光をよく吸収し、太陽電池材料として注目されている。しかし、これまで室温での発光は全く報告されておらず、発光特性は未開拓な材料である。
・研究ではAg2Sにゲルマニウム(Ge)を添加してナノサイズ化することで、これまで世界中で誰も実現できていなかった、近赤外領域で強く安定に発光するAg8GeS6多元素量子ドットの開発に世界で初めて成功した。
・Ag8GeS6量子ドットを水溶性化することで、生体イメージング用発光プローブに応用できた。マウスに注射して発光イメージングを行うと、生体内深部の明瞭なイメージング画像が取得できた。
・Ag8GeS6量子ドットは、生体・細胞への毒性が極めて低く、既存の量子ドットに比べて環境・生体への負荷が格段に低いことが特徴であり、今後の産業・臨床応用に向けた「グリーン・ナノマテリアル」として幅広い分野で応用が期待される。

研究成果は、2025年5月7日に科学誌「Small」にオンライン早期掲載された。

(詳細は、https://www.nagoya-u.ac.jp)