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NTT、6Gの開発を加速する高速・高出力な300GHz帯信号生成システムを実現

June, 30, 2025, 東京--日本電信電話株式会社(NTT」と、NTTイノベーティブデバイス株式会社(NTTイノベーティブデバイス)、Keysight Technologies, Inc.(キーサイト)は、J帯(220GHz~325GHz)をフルカバーする広帯域な増幅器モジュールと、信号の歪を高精度に補償可能な測定システムを開発し、それらを組み合わることによって300GHz帯で0dBmの高出力、かつ280Gbpsの世界最高データレートの信号生成に成功した。
この研究成果は2025年6月15日からアメリカ、サンフランシスコで開催される国際会議IMS2025(2025 IEEE MTT-S International Microwave Symposium)で発表予定である。

研究の成果
今回、J帯で高速・高出力の変調信号を生成できる評価用信号生成システムを実現するため、NTTとNTTイノベーティブデバイスとキーサイトは共同で下記の研究開発に取り組んだ。
NTTでは広帯域なインピーダンスマッチング回路と低損失な合波器回路を搭載した増幅器集積回路(IC)を新たに設計・開発した。この増幅器ICは、NTTが独自に開発した高速動作が可能なInP系化合物半導体を使用して設計されている。また上述の回路構成により、従来では困難であったJ帯の全周波数領域での低損失な信号合成を実現し、J帯フルバンドでの高出力化を達成している。さらに後述のキーサイトの歪補償技術にNTTおよびNTTイノベーティブデバイスが開発した増幅器モジュールを適用し、広帯域性と高線形性を両立した信号生成システムの構築を行い、高速・高出力の信号生成に成功した。
NTTイノベーティブデバイスは、NTTが設計した増幅器ICを上述のInP系化合物半導体を用いて製造を行った。さらにNTTで設計された低損失のJ帯の導波管パッケージに対してICの実装を行うことで、増幅器モジュールを開発し、この実験に提供した。この増幅器モジュールはJ帯の全帯域をカバーし、最大+9.1dBmの高出力を実現している。
キーサイトは独自に開発した信号の歪特性を測定する装置(Vector Component Analyzer)および、歪を高精度で補償する信号処理技術(Digital Pre-Distortion技術)を提供した。この技術はシステムで発生する歪を測定し、これを補償する処理を信号にあらかじめ施すことによって、出力信号の歪を低減するものである。今回、300GHz帯における世界最高データレートで同技術を適用することに成功した。
上記の取り組みにより、300GHz帯において、これまで報告された中で最も高いデータレートである280Gbps(35GBaud 256QAM)の信号生成を達成した。出力パワーは、従来のデータレートのレコード値のパワー(-9dBm)と比較して約8倍高く、実用に足る0dBmの高出力を実現している。

今後の展開
この成果では、信号の歪補償のために、生成信号のテスト信号を一度出力側から入力側へフィードバックする信号処理を行っている。今後、テスト信号のフィードバックを用いない、より簡便かつ柔軟な信号生成のために、歪モデルを用いたフィードフォワードの歪補償技術の適応についても検討する予定である。また生成信号の更なる高速・高出力化に向けたデバイスや装置、信号処理方式の開発と実用化についても取り組み、世の中のサブテラヘルツ波を用いたシステムの研究開発の加速に貢献していく。なお、今回の実験で使用した増幅器モジュールはNTTイノベーティブデバイスによって製品化が開始されている。

(詳細は、https://group.ntt/jp)