May, 21, 2025, 和光--理化学研究所(理研)光量子工学研究センター テラヘルツイメージング研究チームの保科宏道 上級研究員はテラヘルツ(THz、1THzは10の12乗ヘルツ)照射が細胞膜の相転移を誘起する現象を発見した。
この研究成果は、今後のTHz周波数利用の安全性評価や、THz波のバイオ・医薬応用に貢献すると期待される。
保科上級研究員は、THz波の生体影響のメカニズムを解明するため、THz波照射下の細胞膜を対象に、細胞膜分子の拡散係数の測定や、脂質二重膜の相状態の観測を行った。その結果、0.1~0.3THzのTHz波の照射が、細胞膜を構成する脂質二重膜を秩序相から無秩序相へと「融かす」作用があることや、細胞膜の拡散速度が速くなることを発見した。
この研究は、科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版(4月29日付)に掲載された。
研究では、THz波を照射しながら生細胞の光退色後蛍光回復(FRAP)法によって観察・測定可能なTHz-FRAP蛍光顕微鏡を開発した。
開発した蛍光顕微鏡では、まず、蛍光染色した細胞膜の一部をレーザで退色させる。退色した蛍光分子は、時間とともに細胞膜内を拡散するため、レーザが照射された部位の蛍光強度を観測すると、その回復速度から細胞膜分子の拡散係数が分かる(FRAP法)。THz波を照射したときと照射していないときの拡散係数の違いを、温度上昇の効果を補正しながら厳密に比較すると、THz波が細胞膜の分子拡散に与える影響が明らかになる。
研究では、開発した実験装置を用いて、HeLa細胞のTHz-FRAP実験を行った。THz波照射時と非照射時の拡散係数の比較から、HeLa細胞の細胞膜を構成する脂質分子のダイナミクスが、THz波の照射によって、どのように変化するかを観察することができる。
(詳細は、https://www.riken.jp)