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旧来のレーザしか使えないとき

May, 21, 2025, Pasadena--カリフォルニア工科大学(Caltech)の物理学助教授Nick Hutzler(BS ’07)は、1977年に製造されたCoherent 599チューナブル色素レーザは、同氏の研究室で3種の金属含有分子(イッテルビウム、ストロンチウム、および水酸化ラジウム)の電子励起を分析する最初のステップとして驚くほど有用なツールであると述べている。研究者たちは、彼らの実験がいつの日か、宇宙が反物質粒子ではなく物質でほぼ完全にできている理由を説明する新しい基本的な力(または複数の力)を明らかにすることを望んでいる。

この物理学の謎は、Caltechのグッゲンハイム航空研究所で行われた約100年前の発見に端を発している。この研究所は、ジョージ・W・ダウンズ物理学研究所(George W. Downs Laboratory of Physics)とチャールズ・C・ローリッツン高エネルギー物理学研究所(Charles C. Lauritsen Laboratory of High Energy Physics)のHutzler研究室がある建物に隣接している。

1932年、当時Caltech助教授だったCarl Anderson(BS ’27, PhD ’30)は、Guggenheimの3階にある研究室で反物質粒子である陽電子を初めて観測した。陽電子は、負の電荷ではなく正の電荷を持っていることを除いて、電子と同じである。しかし、ビッグバン後に物質と反物質がほぼ同じ量で生成されたはずであるという理論的な予測にもかかわらず、それらは宇宙全体でごく少量しか存在しない。Andersonの発見は、われわれの宇宙に対する見方を変え、1936年にノーベル物理学賞を受賞した。それ以来、物理学者たちは、ビッグバン後にこれらの陽電子反物質粒子に何が起こったのかという問題に困惑してきた。

「スイスの欧州原子核研究機構(CERN)で、大型ハドロン衝突型加速器を使って粒子を衝突させ、そのエネルギーを使って新しい粒子を作ると、物質粒子と反物質粒子が同量生成される。しかし、明らかに何かが起こり、一方が他方よりも多く生成されるが、それが何であるかはわからない」(Hutzler)。

非対称性の追求
素粒子物理学の標準モデルでは、物質粒子は電磁場中で対称的に振る舞う必要がある、具体的には、非対称の電荷分布がなく、完全に球体っであるかのように電場と相互作用しなければならないとされている。「したがって、反物質の欠如を説明する1つの方法は、反物質と比較して実験室で簡単に研究できる通常の物質粒子が、電場に個別に応答する方法にわずかな非対称性がある場合だ。われわれは、未発見の基本粒子や力、つまり標準モデルから外れた何かによってのみ説明できる対称性の破れを観察しようとしている」(Hutzler)。

Hutzlerのチームは、実験用にイッテルビウム分子、ストロンチウム分子、水酸化ラジウム分子を作成した後、Coherent社の色素レーザを使用して分子の電子を励起する。色素レーザは広帯域で光を放出するため、低解像度ではあるが、広範囲の電子励起スペクトルを一度に捕捉することができる。電子は、この励起状態に数ナノ秒間留まり、その後、基底状態に再放射して、同じ波長または異なる波長で光を放出する。

広帯域レーザは時代遅れになったとHutzlerは言うが、これは研究者が狭帯域幅レーザを使用して高解像度でより具体的な周波数範囲に焦点を合わせることを好むことが多いためである。「奇妙に聞こえるかもしれないが、われわれがこのレーザを好む理由は、それが本当に性能が悪いからだ」(Hutzler)。言い換えれば、この段階でチームがより一般的な狭帯域幅レーザを使用する場合、同じ範囲をカバーするために一連のスキャンを行う必要がある。

チームは後に、光を放出した電子の振る舞いについてさらに調査したいスペクトルの特徴を特定した後、狭帯域幅レーザを使用してより精緻な測定を行う。

未発見の粒子
1967年、ロシアの物理学者Andrei Sakharovは、宇宙の物質と反物質の間でまだ発見されていない粒子や力が何であれ、通常の物質の電磁特性も変更できると提案した。さらに、Caltechの物理学者でノーベル賞受賞者のRichard Feynmanは、後に、未発見の粒子を含むすべての素粒子が、電子を取り巻く仮想粒子の雲の中に存在しなければならないことを発見した。

「つまり、物質と反物質の扱いの違いにより、電子などの物質粒子が、例えば対称性を破る形で電場と相互作用するようになるのだ。実際に起こっているのは、電磁場が電子の周りの雲の中で発見されていない対称性を破る粒子と相互作用し、電子に非常に特殊なことをしているということである」(Hutzler)。

さらなる解析により、スピン配向などの電子の特徴におけるこれらの対称性の破れが明らかになることが期待されている。「最終的には、探している効果に非常に敏感であるはずのスペクトル内の特定の機能を確認し、その機能を可能な限り正確に研究する」とHutzlerは付け加えている。「例えば、分子内の電子スピンの傾きを変えると、エネルギーレベルが変わるのか?標準モデルではノーと言うだろうが、われわれが探している新しい粒子と力はイエスと答えるだろう」。

このレーザをHutzlerの測定アプローチと組み合わせるというアイデアは、Caltechの物理学の客員教授であり、アリゾナ州立大学の化学の名誉教授であるTimothy Steimleから生まれた。Hutzlerは、彼のチームは、このような種類の金属含有分子の構造研究の復活を経験した化学界から多くのことを学んだと言う。

Hutzlerのグループは、そのテストがフェルミ研究所やCERNで見られるような大規模な粒子加速器を必要としないため、素粒子物理学の領域では珍しい。「われわれの主なセールスポイントの1つは、これらすべての装置が小さいということだ。すべては実験室規模である」とHutzlerは語っている。

しかし、50年前のレーザが壊れたらどうなるのか?「それほど精密な機器ではない。ミラーやマウントが壊れてしまったことがあり、それを目視して新しい部品を作った。これは、現代のレーザでは不可能なことだ。本当にそうなれば、まったく新しいものを作るしかないだろう」とHutzlerはコメントしている。