May, 14, 2025, 東京--東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻の道畑正岐准教授、吉川元弥大学院生(修士課程2年:研究当時)、増井周造助教、高橋哲教授らによる研究グループは、透明で滑らかな表面を含む、従来は測定が困難であった対象物の構造を三次元的に計測可能な原理を提案し、実験により実証した。
研究では、蛍光を用いた測定物の表面センシング原理を確立することで、例えば、光学レンズのように透明かつ滑らかで急峻な表面を持つ構造の光学3D計測を世界で初めて実現した。従来の共焦点顕微鏡などでは、このような表面からは光学応答が得られないため測定が困難だった。これに対しこの研究では、全方向に放射される蛍光を応答信号として利用するという新たな手法を提案した。
この研究成果は、斜面や側面など従来検査が難しかった箇所の測定を可能とすることから、今後、精密部品(レンズ、金型など)の発展や評価に大きく役立つことが期待される。
発表内容
光センシングや顕微技術においては、滑らかで急な斜面の計測が最大の課題となっている。表面が滑らかな場合、測定には測定面からの正反射光を取得する必要がある。表面が水平に近い場合は問題ないが、斜面が急になると光が測定器に戻ってこなくなるため、測定が難しくなる。ただし、表面が粗く散乱光が取得できる場合は測定できるケースもある。
この研究では、測定物自身が放つ蛍光(自家蛍光)を取得することで表面を検出するという手法を提案した。自家蛍光は広い範囲に放射されるため、急峻な面であっても測定が可能である。
蛍光を応答信号として測定面を検出する例はこれまでになく、この研究では新たに理論モデルを構築することで、得られた蛍光信号から測定面の位置を推定する手法を開発した。水平面に関しては、測定面の位置を66 nm以下の精度で検出することに成功し、0.2 µm以下の斜面についても高い繰り返し精度が得られている。一例として、Blu-rayディスクのピックアップレンズの表面プロファイルを測定した。このレンズは75°以上という急峻な斜面と、表面粗さが数nm以下という滑らかな表面を持つため、現状、測定が最も難しい対象の一つとされている。従来の測定方法では、対物レンズの集光角以上の斜面の測定は困難だったが、提案手法では76°の斜面、また、83°のほぼ垂直面も測定することができた。
この成果は、光を用いた初めての三次元構造計測技術への展開が見込まれる。今後、光学部品のみならず、微細かつ高精度が求められる精密金型などの構造計測を高速に行えることが期待される。さらに、蛍光を用いることで、将来的には測定対象の物性情報の取得も可能になると見込まれるなど、新たな3D光センシングの手法開拓につながる成果である。
(詳細は、https://www.t.u-tokyo.ac.jp)