May, 1, 2025, Cambridge--ハーバード大学ジョン・A・ポールソン工学応用科学大学院(SEAS)の物理学者たちは、有用ではあるが達成が困難な波長範囲で非常に明るく短いパルスの光を放出するコンパクトなレーザを作成し、より大きなフォトニックデバイスの性能を1つのチップに詰め込んだ。
Nature誌に掲載されたこの研究は、外部部品の動作が不要なオンチップのピコ秒中赤外レーザパルス発生器の最初の実証である。このデバイスは、光周波数コムと呼ばれる、等間隔の周波数線(コムなど)で構成される光のスペクトルを作成することができ、今日では精密測定に使用されている。この新しいレーザチップは、いずれ、環境モニタリング用の高感度広域スペクトルガスセンサや、医用画像用の新しいタイプの分光ツールの作成を加速させる可能性がある。
この論文の上級著者は、SEASのRobert L. Wallace応用物理学教授であり、Vinton Hayes電気工学の上級研究員であるFederico Capasso。全米科学財団と国防総省の支援を受けて、この研究はウィーン工科大学(TU Wien)のSchwarzグループとの共同研究だった。Luigi ALugiatoが率いるイタリアの科学者のコンソーシアム。Timothy Dayが率いるLeonardo DRSDaylight Solutions。
「これは、オンチップの非線形フォトニクスを統合して、中赤外線で超短パルスの光を生成する素晴らしい新技術である。今までそのようなものは存在しなかった。さらに、このようなデバイスは、標準的な半導体製造を使用して、産業用レーザファウンドリで容易に製造できる」(Federico Capasso)
中赤外線は、今日、環境アプリケーションで活用されている電磁スペクトルの目に見えない部分である。CO2やメタンなどの多くのガス分子は中赤外光を効率的に吸収するため、この波長範囲は、特に1990年代にCapassoが開拓した量子カスケードレーザ(QCL)技術を使用して、環境ガスを監視するための重要なツールとなっている。
この新しい論文は、たとえば、単一のデバイスでガスの様々な吸収フィンガープリントを検出できる広帯域光源を生成する方法を示している。
「これは、われわれがスーパーコンティニュアム光源と呼ぶものを作成するための重要なステップである。これは、何千もの異なる周波数の光をすべて1つのチップで生成できるものである。それは、このプラットフォームの将来にとって現実的な可能性だと思う」と、Capassoグループの共同筆頭著者で研究員のDmitry Kazakovはコメントしている。
ナノフォトニックエンジニアリングの新たな偉業の基本となるのは、異なるナノ構造半導体材料を重ね合わせることにより、中赤外光のコヒレントビームを生成するQCLである。何十年にもわたってモードロックと呼ばれる確立された技術に依存してパルスを生成してきた他の半導体レーザとは異なり、量子カスケードレーザ(QCL)は、本質的に超高速のダイナミクスのためにパルスが難しいことで有名である。QCLベースの既存中赤外線パルス発生器は、通常、パルス発光を実現するために複雑なセットアップと、多くのディスクリートハードウェアコンポーネントを必要とする。また、一般に、特定の出力パワーとスペクトル帯域幅に制限される。
新しいパルス発生器は、非線形集積フォトニクスと集積レーザのいくつかのコンセプトを1つのデバイスにシームレスに組み合わせて、ソリトンと呼ばれる特定のタイプのピコ秒光パルスを生成する。チップアーキテクチャを設計するにあたり、研究チームは、Kerrマイクロ共振器と呼ばれる一見無関係なタイプの光変調デバイスからインスピレーションを得た。チームの創造的な思考により、モードロックなどの従来の技術を回避してパルスを生成することができた。
「量子カスケードレーザ研究に関しては、われわれの測定は従来とは異なるものだった。われわれは2種類のフィールドを統合し、Kerr共振器コミュニティが行っていることを取り入れて、それをシステムに適用した。それはエキサイティングなプロセスだった」と、MITの大学院生でCapassoグループの研究員、共同筆頭著者のTheodore Letsouは話している。
「私にとって、われわれの新しい研究の最も重要なインパクトは、優れた物理学を超えて、マルチコンポーネントアーキテクチャの製造と運用に自信を与えてくれたことだ。これは、これまで中赤外統合フォトニクスの主要な課題であった能力である」と、論文の共著者であるTU WienのBenedikt Schwarz教授は話している。「われわれはすでに、以前は不可能と考えられていた機能を可能にする新しいアーキテクチャを開発していまる。」
研究チームは、1980年代に発表された、パッシブKerr共振器のフレームワークを確立した基礎理論を利用した。新しい論文の共著者の1人は、中赤外レーザシステムのダイナミクスを記述するために元の方程式を再利用することに取り組んだLuigi Lugiatoである。
「これは、Lugiato-Lefever方程式から始まった進展のエキサイティングな集大成である。パッシブシステムのモデルとして始まったものは、あらゆる種類の空洞でのソリトン周波数コムの統一されたフレームワークに進化した。この経路により、光駆動QCLsの閾値を超えるソリトンを予測することができた。今回、この実験で確認されたことである」と、イタリアのUniversity of Insubria名誉教授Lugiatoはコメントしている。
新しい中赤外線レーザは、一度に数時間のパルス生成を確実に維持できる。また、既存の工業製造プロセスを用いて大量生産することもできるため、普及のスピードが大幅に高まる可能性がある。このデバイスは、外部駆動可能なリング共振器でできている。リング共振器を駆動するオンチップレーザである。また、フィルタとして機能する2番目のアクティブリング共振器である。チップはTU Wienで作られた。
「この技術は、中赤外分光法の分野における真のゲームチェンジャーになる見込である」と、論文の共著者であるLeonardo DRSのDaylight Solutionsビジネスユニットのシニアバイスプレジデント/GM、Timothy Dayは話している。「既存の製造プロセスを活用してこれらのデバイスを商業的に生産する能力は、環境モニタリング、産業プロセス制御、ライフサイエンス研究、医療診断など、いくつかの市場で次の展開を実際に実現する可能性がある。」