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光ファイバ通信向けの実用的な面発光レーザの開発に成功

April, 21, 2025, 東京--情報通信研究機構(NICT)は、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(ソニー)と共同で、光ファイバ通信に使用できる実用的な面発光レーザの開発に世界で初めて成功した。

これを可能にしたのは、NICTの高精度な結晶成長技術とSonyの高度な加工技術。今回開発に成功した面発光レーザは、量子ドットと呼ばれるナノスケールの半導体粒子を発光材料として利用していることが特徴。光ファイバ通信システムにおいて光源の小型化や低消費電力化ができるようになるだけでなく、大量生産による低コスト化や集積化による高出力化も期待できる。

今回の成果
今回、NICTは、Sonyとの共同研究において、量子ドット(QDs)と呼ばれるナノスケールの半導体粒子を発光材料として利用し、光ファイバ通信に使われる波長1,550 nm帯用VCSELの電流駆動に世界で初めて成功した(図1参照)。

要素技術の一つ目は、NICTが開発したものであり、分子線エピタキシーを用いた高精度な化合物半導体結晶成長技術である。VCSELの作製には、光の強度を増加させるため高反射率の半導体多層膜の結晶成長が必要となるが、1,550 nm帯用VCSELでは結晶成長できる材料の組合せが限られているため、その作製が難しいとされていた。今回開発したのは、“結晶成長における材料の比率を厳密に制御することにより、多層膜を精度よく結晶成長する技術”で、1,550 nm帯でも99%以上の高反射率半導体多層膜を実現した。また、 “量子ドットの周りに発生する結晶の歪(材料内部に発生する歪)を正確に打ち消す歪補償技術”をVCSEL作製に適用し、発光材料である量子ドットの密度を飛躍的に高めることを実現した。

二つ目は、ソニーが開発したものであり、トンネル接合と呼ばれる構造を用いた高効率な電流注入を実現するデバイス設計及びデバイスプロセス技術である。VCSELは半導体ウエハの上面に対して垂直に光が出射されるため、量子ドットが発光しても電極が光を遮ってしまい、外に取り出しにくいという欠点があった。光を外に取り出すために電流がうまく流れていく構造(トンネル接合)を設計し、高精度なデバイスプロセスを用いることでこれを実現した。

これらの開発技術を組み合わせることで、13 mAという小さい(低しきい値)電流で1,550 nm帯の量子ドットを発光材料に用いたVCSELのレーザ発振に成功した。また、偏光のゆらぎがなくなり、出力が安定することも明らかにった。

量子ドットを発光材料として用いた場合、温度安定性に優れたVCSELを実現することが可能になる。また、VCSELは大量生産可能な構造である。これらのことから、光通信波長帯レーザの高性能化、低コスト化、集積化による高出力化が期待できる。

この実験結果の論文は、光技術全般に関しての著名な国際論文誌である、米国OPTICA Publishing GroupのOptics Express誌に採択され、2025年3月24日(月)発行のVol.33 Issue 6に掲載された。

(詳細は、https://www.nict.go.jp)