April, 8, 2025, 東京---芝浦工業大学工学部・堀顕子教授(分子集合学研究室)らの研究チームは、環境汚染の規制対象とされるナフタレンを視覚的に認識できる手軽なカラーセンサを開発した。
ナフタレンは防虫剤等に使われる化合物であり、石油や石炭の精製過程で生じ、様々な化合物への原料になる。その一方で、環境省により基準が定められている大気圏や水圏の汚染物質であり検出対象とされている。そのため、ナフタレンのみを簡単に検出できるカラーセンサの開発は次世代の分子認識材料として注目を集めている。
今回、電荷移動発色団をもつ有機化合物の合成研究から、ろ紙上及び水中のナフタレンだけを簡便かつ素早く認識し、色が青から赤に変わることを見出した。
今後も環境保全に向けて化学物質の追跡と検出ができるようこの技術を活用していく。
研究の概要
研究チームはナフタレンの検出に向けて、窒素を含む新しい分子(ピラジナセン誘導体)を開発し、ナフタレンと出会うと色が変化する仕組みを発見した。この分子は、電子を受け取りやすい性質を持つピラジナセン(アクセプタ)と、電子を与えやすいトリフェニルアミン(ドナー)を組み合わせた、炭素、水素、窒素だけで構成された有機化合物である。この分子は単独で分子内電荷移動(ICT)により青色を示す。一般的な水や有機溶剤をかけても色は変わらないが、この化合物を塗布したろ紙にナフタレン溶液を一滴落とすと、ピラジナセン部位がナフタレンを認識し(π-hole•••π相互作用)、分子内よりも分子間で電荷移動(CT)が発生し、赤紫色へと変化する。この研究では独立した2種類の分子内電荷移動(ICT)と分子間電荷移動(CT)が巧みに組み合わさることで、ナフタレンの検出が可能になっている。
さらに、今回の研究では水中や食塩水中でのナフタレン検出についても調べた。ナフタレンは水溶性を示すため水中でのナフタレン認識は重要な課題だが、一般的な分子認識(分子が特定の物質を認識する仕組み)において、水溶液中では大量に存在する水の影響で微量分子の検出が難しいとされている。今回の方法では水溶液中に溶けた微量のナフタレンであってもこの化合物と共存させることで赤紫色の結晶の析出が見られ、水からの分離と、色で検出できることが分かった。また繰り返しの実験にも性能が落ちることがなく、合成されたピラジナセン誘導体がナフタレンを認識するカラーセンサとして有用であることが明らかになった。