Science/Research 詳細

データ駆動型レーザ加工によって欠損率の低いナノ構造を実現

April, 4, 2025, 東京--産業技術総合研究所(産総研)と東京農工大の研究チームは、共同で、レーザ加工によりガラス表面にナノメートルサイズの周期構造(ナノ周期構造)を低欠損で形成するデータ駆動型レーザ加工技術を開発した。

ガラスの表面へナノ周期構造を形成することで、低反射表面などの効果を付与することができ、高機能なディスプレイや光学機器などへの応用が期待されている。
近年、フェムト秒レーザパルスを用いてガラス表面をナノ加工する技術や、形成されたナノ周期構造をリアルタイムにモニタリングする技術が開発された。しかし、ガラス表面へのナノ加工はガラスの表面状態やレーザの照射条件に大きく依存するため、クラックなど欠損のないナノ周期構造を安定に形成することは難しいという技術課題があった。

今回、ガラス表面へのナノ加工をリアルタイムにモニタリングしたデータをもとに、フェムト秒レーザパルスの強度を高速にフィードバック制御できるデータ駆動型レーザ加工システムを構築し、ガラス表面へのナノ加工の欠損率を30分の1に低減した。この成果は、光の反射・吸収・透過量などが制御された高い機能を、必要な部分に位置選択的に付与した光学部品製造へ貢献する。

研究の内容
ガラス表面に光の波長以下の大きさのナノ周期構造があると、モスアイ効果により、表面の反射率は減少し、透過率が増加する。研究チームはこの現象をレーザ加工中のナノ周期構造形成の検出対象として着目した。
実験では、フェムト秒レーザパルスを合成石英ガラス表面に対物レンズで集光照射しながら、合成石英ガラスを一定の速度で動かすことでレーザ加工した。このガラス表面に、波長660 nmと850 nmの発光ダイオードをそれぞれ同軸落射、透過照明光源として使用し、レーザ加工表面の波長ごとの顕微画像を2台のCMOSカメラで取得した。得られた顕微画像を、あらかじめ取得しておいたレーザ加工をしていない領域の顕微画像と比較することにより、未加工領域からの反射光強度に対するレーザ加工領域からの反射光強度の比(相対反射率)と、未加工領域からの透過光強度に対するレーザ加工領域からの透過光強度の比(相対透過率)を求めた。さらに、加工後の合成石英ガラス基板の表面と断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、レーザ加工時にモニタリングした相対反射率と相対透過率とを紐づけたプロセスデータベースを作成した。その結果、相対反射率・透過率において、周期が約200 nm、深さが約1 µmの直線状のナノ周期構造が均一に形成されることを見いだした。

次に、レーザ照射中の相対反射率と相対透過率が所望のナノ周期構造を形成する値となるように、フェムト秒レーザパルスの強度をフィードバック制御すると、1ライン照射領域内(長さ1 mm)でのナノ周期構造の欠損率は2.4%となり、制御しない場合の24.4%と比較して、約10分の1に低減できることを示した。
さらに、横100 µm、縦20 µmの領域をレーザ加工したところ、制御しない場合ではナノ周期構造の欠損率は約64%であった一方で、制御した場合では約2%であり、データ駆動型レーザ加工システムによるフィードバック制御によって欠損率を約30分の1に低減することができた。このフィードバック制御を用いて合成石英ガラス両面にナノ周期構造を形成することで、光の透過率が大きい低反射ガラスの形成に成功した。

さらに、同手法中のプロセスモニタリングにおいて重要な要素となるナノ周期構造形成と透過率の関係をより詳細に調べた。レーザ加工で表面にナノ周期構造を形成することで反射率が低減されるが、プロセスモニタリングでは、そこから計算される透過率を大きく超えた値(約1.5倍)が観測される。その原因を解明するため、ナノ構造を有するガラス表面を透過したLED光の電場の振幅と位相の分布を、有限差分時間領域法により数値計算シミュレーションした。その結果、ナノ周期構造を持つガラス表面を透過した光の電場振幅(明るさ)は低下しないことがわかった。さらに、ナノ周期構造形成領域で波面がゆがむ結果、光の干渉が生じ計測カメラ上で透過光強度が上昇しているように見えることがわかった。これは今後、この手法の高速化といった、さらなる効率化のための重要な知見となる。

この技術の詳細は、2025年2月13日に「Light: Advanced Manufacturing」にオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.aist.go.jp)

研究チーム
産業技術総合研究所電子光基礎技術研究部門 奈良崎愛子 総括研究主幹、高田英行 主任研究員、吉富大 主任研究員は、東京農工大学大学院工学研究院 先端物理工学部門 宮地 悟代 教授、同大学院学生兼同研究所リサーチアシスタント 長井大輔 (当時)、三善武碩