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回転するねじれた光が次世代の電子機器に電力を供給

March, 25, 2025, Eindhoven--TU/eの研究チームは、有機半導体の分野で数十年にわたる課題を進め、エレクトロニクスの未来に新たな可能性を切り開いてきた。

University of Cambridgeと the Eindhoven University of Technology(TU/e)が率いる研究チームは、電子をラセン状に動かす有機半導体を作成した。これは、テレビやスマートフォンの画面のOLEDディスプレイの効率を向上させたり、スピントロニクスや量子コンピューティングなどの次世代コンピューティング技術を駆動したりする可能性がある。

チームが開発した半導体は円偏光を放出する、つまり、光は電子の「左利きか右利きか」に関する情報を運んでいる。シリコンのようなほとんどの無機半導体の内部構造は対称的であり、電子は好ましい方向を持たずにそれらを移動する。

しかし、自然界では、大抵の場合、分子はキラル(左手型または右手型)の構造をしており、人間の手のように、キラル分子は互いに鏡像のようなものである。キラリティはDNA形成のような生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすが、エレクトロニクスで利用して制御するのは難しい現象である。

キラル半導体
自然から着想を得た分子設計の手法を用いて、研究チームは半導体分子のスタックを動かし、右巻きまたは左巻きのラセン状列を形成することで、キラル半導体を作製することができた。その成果は、Science誌に報告されている。

キラル半導体の有望なアプリケーションの1つは、ディスプレイ技術。現在のディスプレイは、画面が光をフィルタリングする方法により、多くの場合、大量のエネルギーを浪費している。チームが開発したキラル半導体は、これらの損失を減らすことができる方法で自然に光を放出し、スクリーンをより明るく、よりエネルギー効率の高いものにする。

「私が有機半導体に取り組み始めたとき、多くの人がその可能性を疑っていたが、今ではディスプレイ技術を支配している」と、研究を共同で主導したケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のProfessor Sir Richard Friendは話している。

「硬質無機半導体とは異なり、分子材料は非常に高い柔軟性を備えているため、キラルLEDsのようなまったく新しい構造を設計することができる。それは、長方形のレンガだけでなく、想像できるあらゆる種類の形のレゴセットで作業するようなものである。」

ラセン状に進む
この半導体は、トリアザトルキセン(TAT)と呼ばれる材料をベースにしており、自己組織化してラセン状のスタックになり、電子がネジのネジ山のようにその構造に沿ってラセン状になる。

「青色光や紫外線で励起されると、TATは強い円偏光を伴う明るい緑色の光を放出する。これは、これまで半導体では達成が難しかった効果である」と、TU/eの共同筆頭著者であるMarco Preußはコメントしている。

OLED製造技術を変更することにより、研究チームはTATを作業用円偏光OLED(CP-OLED)に組み込むことに成功した。これらのデバイスは、記録的な効率、明るさ、偏光レベルを示し、この種のデバイスの中で最高だった。

「われわれは、スマートフォンのようにOLEDsを作るための標準的なレシピを基本的に作り直した。これにより、安定した非結晶化マトリックス内にキラル構造を閉じ込めることができた。これは、長い間この分野から逃れてきた円偏光LEDsを作成する実用的な方法となる」と、ケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所の共同筆頭著者であるRituparno Chowdhuryは話している。

数十年にわたるコラボレーション
この研究は、Friendの研究グループとTU/eのBert Meijer教授のグループとの間の数十年にわたる共同研究の一部である。「これは、キラル半導体を作る上での真のブレークスルーである。分子構造を慎重に設計することで、構造のキラリティを電子の運動に結合させた。これはこれまでこのレベルでは行われていなかった」(Meijer)。

キラル半導体は、有機半導体の世界における一歩の前進であり、現在、600億ドル以上の価値を持つ業界を支えている。この開発は、ディスプレイだけでなく、量子コンピューティングやスピントロニクス(電子のスピン(固有の角運動量)を利用して情報を保存・処理する研究分野)にも影響を及ぼし、より高速で安全なコンピューティングシステムにつながる可能性がある。