January, 22, 2025, 東京--東京大学大学院総合文化研究科の井上一希大学院生、奥野将成准教授らは、新たな振動分光法である「コヒーレント・反ストークス・ハイパーラマン散乱(Coherent Anti-stokes Hyper-Raman Scattering: CAHRS)分光」を開発した。
研究ではコヒーレント・ラマン過程とハイパーラマン過程を組み合わせることで、CAHRS信号を世界で初めて実験的に観測した。先行研究では極めて微弱で検出が難しかった自発ハイパーラマン散乱信号を増幅し、ラマン分光では観測できない分子振動に由来する信号を高効率に検出可能にする手法。この研究成果は今後、物質の超高速ダイナミクスの研究や、振動スペクトルに基づいたイメージングなどに役立つことが期待される。
研究グループが有していたハイパーラマン分光についての知見を活用し、CAHRS分光を実現する分光装置を構築した。CAHRS過程は5次非線形光学効果に基づくため、より低次の光学効果による信号が混入する可能性がある。研究グループでは、様々な観点から分光実験を行い、今回得られた信号が確かに真のCAHRS信号であることを実証した。また、試験試料として用いたパラ-ニトロアニリン溶液やベンゼンの測定結果から、CAHRS分光によって、従来の自発ハイパーラマン分光と比べて10分の1の時間で、はるかに高い信号ノイズ比を持つ信号を得られることを示した。
このように今回の研究によって、ハイパーラマン分光法とコヒーレント・ラマン過程を組み合わせることで、微弱な信号を増幅し、短時間でのハイパーラマン散乱信号の取得を可能にした。この研究によって、これまでハイパーラマン分光法では不可能とされてきた測定が可能になり、基礎物理化学のみならず、分析化学における測定技術の革新に貢献することが期待される。
(詳細は、https://www.c.u-tokyo.ac.jp)