Science/Research 詳細

レーザとシンプル光源を置き換えてデバイス性能向上

December, 11, 2024, Oxford--オックスフォード大学の研究者らは、ミュンスター大学、ハイデルベルク大学、ゲント大学の共同研究者とともに、レーザをそれほど複雑でない光源に置き換えることで、光駆動型AI技術などの一部の光学アプリケーションで性能を驚くほど向上させることができるという新たな知見を報告している。この発見により、より安価でエネルギー消費の少ない光源を、通常は高価でハイスペックなレーザに依存していたアプリケーションで使用できる道が開かれる。

光源の特性は、物理学者がコヒレンスと呼ぶ量、つまり光の波が時間と空間で互いに一致している度合いによって特徴付けられることがよくある。太陽や電球などの低コヒーレンス光源は、様々な色(または波長)で光を放射する。一方、高品質の人工光源(レーザなど)は、波長範囲が非常に狭く、通常は単色で表示される。

コヒレント性の高い光(レーザ)を設計し、使用する能力は、光通信、LiDAR(Light Detection and Ranging)リモートセンシング技術、医用画像技術など、最新のアプリケーションの基盤となっている。したがって、よりコヒレントな光源を使用すると、たとえば、より高い解像度とより正確な測定が可能になり、システムのパフォーマンスとデバイスの機能が向上すると考えるのは自然なことだった。

この新しい発見は、この従来の常識に疑問を投げかけ、低コヒレンス光源が、電子の代わりに光子を使用してAI計算を実行する新しい技術であるフォトニックAIアクセラレータなど、特定のケースで実際により適切に機能できることを明らかにしている。

研究チームは、電気励起エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA:光通信で光ファイバを通過する光信号の強度を高めるために使用されるデバイス)によって生成されるインコヒレント光のスペクトルの狭い部分を利用することにより、部分的にコヒレントな光源を使用した。この部分的にコヒレントな光は、並列AI計算配列のために均等に分割され、異なる入力チャネルに分配された。このような光源を使用すると、入力チャネル数がNチャンネルのフォトニックアクセラレータでは、AI計算の並列性が驚くほどN倍向上する。

テストケースとして、このシステムを用いてパーキンソン病患者の歩行方法を解析し、92%以上の分類精度を達成した。また、チームは、9つの入力チャネルを持つ1つの部分コヒレント光源のみを使用する単純なシステムを使用して、毎秒約1,000億回の高速AIタスクを実行する方法も示した。通常、このような速度(1秒間に2時間以上の4Kビデオを再生するのに相当)は、複数の別々のコヒレントレーザを備えたコヒレントフォトニックAIアクセラレータでのみ達成できる。

最終的に、光源を追加する必要がなくなることで、オックスフォード大学材料学部の筆頭著者Dr. Bowei Dongは次のように説明している。
「フォトニックアクセラレータが100入力チャネルにスケーリングすれば、レーザシステムと比較してAIモデルを100倍高速に実行できる。」

この研究を主導したオックスフォード大学材料学部のHarish Bhaskaran教授で、Salience Labsの共同創設者は「この研究は、フォトニックコンピューティングの一部の新興分野でのこのような部分コヒレント光の使用を示しているが、将来的には、この洞察が光通信、特に新興の光インタコネクト技術分野に適用されるかどうかも調査する。これは、多くの興味深い科学と工学を探求し、急速に進んでいる研究分野である」とコメントしている。

この研究成果「Partial coherence enhances parallelized photonic computing」がNatureに掲載された。