September, 19, 2024, 東京--東京大学大学院工学系研究科の吉岡孝高准教授、周健治助教と、同大学大学院理学系研究科の石田明助教らによる研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所、産業技術総合研究所と共同で、レーザ光によるポジトロニウムの急速な冷却を世界で初めて実現した。
独自に開発したレーザ光源を使用することで、理論提案から30年の間実現が待たれていたポジトロニウムのレーザ冷却に成功し、わずか1000万分の1秒の間に、従来よりも桁違いに低温の気体にできることを証明した。物理学は、宇宙に反粒子がほとんど残っていないことや、暗黒物質の起源など、多くの謎を抱えている。これを解決するため、基礎理論の綻びがどこにあるのかを検証する研究が世界中で進められている。
研究成果は、電子とその反粒子だけでできた最も基本的な原子を使って、基礎理論が現実をどこまで正確に表現できているのか、さらには反粒子の質量や重力の影響を精密に調べる研究を可能とするもので、今後大きな学際的研究分野の形成が期待される。
発表のポイント
・電子とその反粒子である陽電子でできた「原子」であるポジトロニウムは、2個の素粒子だけでできているという単純さから既存の理論による計算と実験データを緻密に比べて、理論を超えた未知の物理現象の探索実験ができる。そのためにはポジトロニウムを絶対零度近くまで冷やす必要があるが、冷却が難しく、絶対零度にほど遠い100ケルビン程度までしか達成できていなかった。
・原子を絶対零度近くまで冷やす手法として、レーザ冷却と呼ばれる方法があるが、ポジトロニウムは1000万分の1秒程度で「対消滅」という現象を起こしてなくなってしまうこともあり、これまでの方式が使えない。今回、独自の技術によって波長が急速に変化するパルス列のレーザ光を開発し、対消滅が起きるより早く1ケルビンまで急冷することに世界で初めて成功した。
・今後、光によるエネルギー準位や質量の精密な測定が可能となり、物理学の基礎理論の検証や反物質の性質の理解など、物理学が抱える謎を解くための研究分野が大きく進展する。
(詳細は、https://www.t.u-tokyo.ac.jp)