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中赤外レーザでナノパタニング

July, 25, 2024, New York--様々な材料にナノ構造を刻み込むまたはパターン化する能力は、エレクトロニクスとフォトニクスの扉を開き、新しいプラズモニックデバイスとメタマテリアルを可能にした。
しかし、電子ビームリソグラフィ、化学エッチング、フェムト秒レーザ描画など、このようなナノパターンを作成する技術は、週末のホビィストのものではない。その代わり、これらのアプローチでは、通常、高価なクリーンルーム環境で多段階の処理が必要である。また、サンプルを損傷し、残留物や破片を残す可能性がある。

今回、米国コロンビア大学のAlexander Gaeta教授の研究室は、自由空間で中赤外レーザのみを用いて、少なくとも1種類のナノパターニング(2次元材料に原子レベルで鋭い切断)を施す方法を考案した(Sci. Adv., doi: 10.1126/sciadv.adi3653)。この巧妙なトリックを成功させるために、研究チームはレーザを慎重に調整し、材料内の共鳴振動フォノンを励起して狂乱させ、原子レベルで正確なまっすぐな亀裂を形成して材料全体に伝播させた。その結果は、シャープなナノスケールの特徴。クリーンルームは必要ない。

チームはこの手法を「解凍」と呼んでいる。また、その顕著な側面の1つは、それが生成する亀裂のナノメートルスケールの鋭さが、駆動レーザの中赤外波長よりも桁違いに小さいことである。「通常、より小さなパタンを作るには、より短い波長が必要になる。ここでは、非常に長い波長を使って、著しくシャープなナノ構造を作ることができる。それは、逆説的な現象である」と、この研究を主導したコロンビア大学の大学院生、Cecilia Chenはプレスリリースでコメントしている。

hBNに照準を合わせる
Chenとチームが解凍技術のテストベッドとして選んだ層状2D材料は、六方晶窒化ホウ素(hBN)だった。この材料は、潤滑剤および化粧品添加剤として長い歴史を持ち、最近では、別の2D材料であるグラフェンの基板として、また多くの非線形光学用途において、有望なフォトニックおよびオプトエレクトロニクス材料として関心を集めている。

hBNの潜在的な魅力のいくつかは、卓上型中赤外レーザが利用できる領域である7.3µmの自由空間光波長での結晶構造の強い振動(フォノン)共鳴に関連している。実際、昨年末に発表された研究で、Gaetaのチームは、高品質のhBNフレークをその波長に調整されたレーザでくすぐると、材料に4光波混合や第3高調波発生などの光学的非線形性が誘発され、増幅されることを示した。この研究では、完全なままの結晶の非線形特性を高めることが目的であったため、研究者は意図的に中赤外レーザ強度をhBNの推定損傷閾値、50TW/㎠未満に抑えた。

物事をさらに困難に追い込む
Chenが率いる新しい研究では、研究チームは、同じ中赤外共鳴を使用して実際にhBN結晶を変更できるかどうかを調べたいと考えた。そのために、同様の実験設定から始め、次にレーザを強く駆動して損傷の閾値を超えた。

具体的には、Ti:sapphireモードロック発振器、チャープパルス増幅器、光パラメトリック増幅器、差分周波数発生モジュールをテーブルトップシステムに連結し、1kHzの繰り返し周波数で120fs、7.3μmの波長のパルスストリームを生成した。パルスビームは反射され、40×顕微鏡対物レンズを通過し、超高純度hBNの試料に50〜65TW/㎠の範囲の強度に集束された。ビーム経路の調整可能な電子シャッタにより、チームはサンプルに到達するパルス数をさらに制御できるようになった。

研究チームは、レーザ処理により、レーザスポットに亀裂が生じ(おそらくhBN結晶の内部欠陥の結果として)、結晶を通る「ほぼ一方向」の亀裂先端の急速な伝播が引き起こされることを発見した。チームは、顕微鏡でこのプロセスの様子をリアルタイムで観察し、亀裂の伝播速度を100µm/sと推定した。

原子間力顕微鏡と原子スケールの横方向力顕微鏡により、得られた特徴が原子レベルでシャープであることが確認された。また、この技術の効率は、レーザ波長の慎重な調整だけでなく、(当然のことながら)結晶の対称性システムを利用するためにレーザの偏光を正確に揃えることにもかかっていることもわかった。

クリーンルームからの脱出
中赤外卓上レーザを使用してナノメートルスケールの特徴を作成することは、間違いなく素晴らしい成果である。しかし、それは何に役立つのか?

少なくとも、Chenのチームは、ヘテロ構造で使用するためにhBNをカットアップするための、クリーンルームを使わない新しい方法を提供できると考えている。実際、チームは、隣接する領域に異なる偏光のレーザ光を照射することで、半導体マスクのパタニングなどのアプリケーションで、より複雑でカスタムなフレーク形状が可能になる可能性があると示唆している。また、この手法を用いて、hBNの準周期格子構造を作製できることも示した。

おそらくもっと興味深いのは、フォノンポラリトン(光子と光フォノンの結合から生じる振動準粒子)の生成におけるいくつかの潜在的な応用である。これらの準粒子モードは、回折限界以下のイメージング、一部の量子アプリケーション、光学デバイスの小型化など、様々な分野で有望である。研究チームの実験は、赤外線照明が、典型的なhBNフレークの自然な端よりも、解凍法によって作られた超鋭角境界で、これらの有用な準粒子をはるかに効率的に励起できることを示唆している。研究チームは、1つのサンプルで、2本のラインを並列に解凍することで、このようなフォノンポラリトンを閉じ込めて増幅するためのファブリ・ペロ共振器を作成することさえできた。

この技術にはまだ改善の余地がたくさんあると、Chenは研究に付随するプレスリリースで話している。特に、解凍プロセスはかなり扱いにくく、最適な結果を得るには、慎重に調整されたレーザと正確な向きが必要になる。また、今のところ、hBNに特異的であり、その物質の波長共鳴は7.3µmである。

とは言え、レーザが異なると、プロセスを他の材料にエクスポートできる可能性がある。その点、研究の著者らは、量子応用と社会の電化の両方にとってますます重要性を増しているが、加工が困難な炭化ケイ素(SiC)は、hBNと同様に、共鳴波長が約10µmのIR活性光フォノンを持つ極性結晶であると指摘している。もしかしたら、適切なレーザがあれば、解凍もSiC処理ツールキットの一部になる可能性がある。