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エキシトン(励起子)で地上最薄レンズ実現

June, 13, 2024, Amsterdam--レンズは、光を曲げたり集束したりするために使用される。通常のレンズは湾曲形状でこの効果を得ているが、アムステルダム大学とスタンフォード大学の物理学者は、量子効果を利用した原子3個分の厚さの平面レンズを作った。このタイプのレンズは、将来の拡張現実(AR)メガネに使用できる可能性がある。

レンズというと、曲面ガラスを思い浮かべる人は多い。このタイプのレンズは、光がガラスに入るときに屈折(曲がる)し、出るときに再び屈折(曲がる)することで機能し、物を実際よりも大きくしたり、近くに見せたりすることができる。われわれは2000年以上にわたって曲面レンズを使用しており、遠くの惑星や星の動きを研究したり、小さな微生物を明らかにしたり、視力を向上させたりしてきた。

アムステルダム大学のLudovico Guarneri, Thomas Bauer, およびJorik van de Groepは、カリフォルニア州のスタンフォード大学の研究者とともに、異なるアプローチを採用した。二硫化タングステン(WS2)、幅は1/2㎜、厚さはわずか0.6nm(0.0000006㎜)の平坦なレンズを作製した。これは、地球上最薄レンズである。

湾曲形状に頼るのではなく、そのレンズはWS2の隙間がある同心円状のリングでできている。これは「フレネルレンズ」または「ゾーンプレートレンズ」と呼ばれ、屈折ではなく回折を使用して光を集束させる。リングのサイズとリング間の距離(リングに当たる光の波長と比較)によって、レンズの焦点距離が決まる。ここで使用されているデザインは、レンズから1mmの赤色光を集光する。

量子エンハンスメント
このレンズのユニークな特徴は、その集光効率がWS2内の量子効果に依存していることである。.これらの効果により、材料は特定の波長の光を効率的に吸収および再放出し、レンズにこれらの波長でより適切に機能する内蔵能力を与える。

この量子エンハンスメントは次のように機能する。まず、WS2電子をより高いエネルギー準位に送ることによって光を吸収する。物質の極薄構造により、負の電荷を帯びた電子と、それが原子格子に残した正の電荷を帯びた「正孔」は、それらの間の静電引力によって結合したままであり、「励起子」として知られるものを形成する。これらの励起子(エキシトン)は、電子と正孔が合体して光を放出することで、すぐに再び消える。この再放射された光は、レンズの効率に貢献する。

科学者たちは、励起子から放出される特定の波長の光について、レンズ効率の明確なピークを検出した。その効果は室温ですでに観察されているが、レンズを冷却するとさらに効率的になる。これは、励起子が低温でよりよく機能するためである。

拡張現実(AR)
レンズのもう1つのユニークな特徴は、レンズを通過する光の一部が明るい焦点になるのに対し、ほとんどの光は影響を受けずに通過することである。これは不利な点のように聞こえるかも知れないが、実際には未来の技術で使用するための新しい扉を開く。「このレンズは、レンズを通しての視界を乱してはならないアプリケーションに使用できるが、光のごく一部をタップして情報を収集することができる。これは、拡張現実(AR)などのウェアラブルメガネに最適である」と、論文の著者の1人Jorik van de Groepは説明している。

研究チームは現在、機能(集光など)を電気的に調整できる、より複雑で多機能光学コーティングの設計とテストに照準を合わせている。「励起子は材料内の電荷密度に非常に敏感であるため、電圧を印加することで材料の屈折率を変えることができる」とVan de Groepは説明している。励起子材料の未来は明るい。