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裏庭の昆虫から光学材料インスピレーション

May, 2, 2024, University Park--米国ペンシルベニア州立大学の研究チームは、一般的な裏庭の昆虫であるヨコバイが生成するナノ構造粒子が、不可視クロークや反射防止コーティングなどのアプリケーション向けの新世代の光学材料にインスピレーションを与える可能性があると考えている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, doi: 10.1073/pnas.2312700121)。
研究チームは、ブロコソームと呼ばれる粒子の複雑な形状を正確に再現することで、実験室で作られたバージョンが光の反射を最大94%低減できることを示した。

「表面上の光の反射を調節する新戦略を使えば、人間や機械の熱的特徴を隠すことができるかも知れない。いつの日か、ヨコバイが使うトリックを基にした熱不可視のマントを開発できるかも知れない」と、論文の筆頭著者Lin Wangはコメントしている。

ブロコソームの複製
珍しい粒子はバッキーボール型の形状をしており、表面全体に開いた穴が分布しており、すべてが中央の空洞を介して接続されている。これまでの研究で、ブロコソームと穴の大きさはヨコバイの種間でそれぞれ約600 nmと200 nm程度と驚くほど一致していることが示されていたが、その性質や目的を理解する取組は、このような複雑な構造を実験室で作ることが困難であったために妨げられてきた。

ペンシルベニア州立大学の研究チームは、2017年に粒子の簡略化されたバージョンを作成したが、この新しい研究では、高度な3Dプリント手法を使用して、天然のブロコソームの正確な形状を再現した。プリンティング技術の解像度ではナノスケールの特徴を再現できなかったため、研究チームは、天然粒子が可視光や紫外線周波数と相互作用するのと同じように赤外光を反射する直径約20µmのスケールアップモデルを作製した。

その結果、粒子の開いた形状は、粒子の直径とほぼ同じ波長の光を最大80%散乱し、自然界ではヨコバイに可視周波数で効果的な反射防止シールドを提供することがわかった。また、表面の穴は短波長の光を吸収するため、鳥や爬虫類などの紫外線視力を持つ捕食者による検出を回避するのに役立つ。

未来の材料
研究チームは、ブロコソームのユニークな特性が、太陽電池の効率を高めたり、光による損傷から薬剤を保護したりするためのコーティングの改良など、将来の光学材料の設計にインスピレーションを与える可能性があると考えている。ブロコソームのような構造を利用して情報を暗号化し、機密データを特定の波長でしか表示できないようにすることもできる。

「われわれの研究は、自然を理解することが現代の技術の開発にどのように役立つかを示している。われわれは1つの昆虫種に焦点を絞っただけだが、物質科学者の研究を待っている素晴らしい昆虫は他にもたくさんある」とWangは付け加えている。