April, 25, 2024, 東京--情報通信研究機構(NICT)、東京大学大学院工学系研究科(研究科長: 加藤 泰浩)、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所、次世代宇宙システム技術研究組合及びスカパーJSAT株式会社は、低軌道上の国際宇宙ステーション(ISS)から地上の可搬型光地上局への光通信により、1回の上空通過で100万ビット以上の秘密鍵を共有し、ISSと地上局とでの情報理論的に安全な通信の実証に成功した。
この通信実証の成功により、低軌道衛星からの光通信による高速かつ高い安全性を持つ暗号鍵を任意の地上局と共有する技術的な見通しが立った。
この技術が実用化されれば、原理的に地球上のどこでも安全な暗号鍵の共有ができ、通信で漏えいを防ぐことができるため、国家安全保障や外交の分野において不可欠な重要情報の高秘匿通信が可能になる。今後、この技術の開発を更に進め、機密情報を扱うユーザ向けの衛星量子暗号システムの社会実装を目指す。
今回、NICTを始めとした5機関の研究開発チームは、衛星—地上局間の見通し通信路の性質を利用し、より高効率で鍵共有を可能とする物理レイヤ暗号の研究開発を進め、その宇宙実証を行った。
今回の実験で研究開発チームは、低軌道高秘匿光通信装置(SeCRETSシークレッツ)を開発し、ISSの日本実験棟きぼう船外実験プラットフォームに搭載した。このSeCRETSから10 GHzクロックで乱数データ(鍵データ)を変調した信号光を地上に向けて発射し、NICT本部に設置した可搬型光地上局の直径35 cm反射型望遠鏡で信号光を受信することができた(なお、可搬型光地上局及びそこから25 m離れた直径1.5 m地上固定局望遠鏡で光信号とビーコン光の光強度を測定し、地上での光ビームの広がり具合を推定している。)。また、信号の盗聴者への情報漏えい量を無限小とするため、この受信した乱数データをISSと地上局の間で鍵蒸留処理をすることで、1回の上空通過で100万ビット以上の安全な暗号鍵の生成に成功した。
さらに、この蒸留処理した暗号鍵を用いて軌道上にある写真データをワンタイムパッド暗号化してISSからの電波による通信を通じて地上に送信し、復号することでこの写真データを取得することにも成功した。
今回開発したSeCRETSは、そのほとんどの部分を民生部品で構成しているが、低軌道衛星を想定した環境での使用を想定した耐真空環境、耐放射線被曝に関する試験を行い、低軌道のような過酷環境下でも問題なく動作することを確認している。また、光学系望遠鏡をトラックに搭載することで可搬型の光地上局を構成し、かつ、高速変調した信号の受信のための極めて微細な調整が可能な追尾システムを導入している。
これらの開発により、衛星搭載用暗号装置の低コスト化及び開発期間短縮の可能性を高め、可用性の高い可搬型光地上局を用いた高速光通信を実証することができ、衛星量子暗号通信の社会実装に向けて大きな一歩を踏み出した。
(詳細は、https://www.nict.go.jp)