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Science/Research 詳細

超短光パルスで高精度「人工ノーズ」実現

April, 23, 2024, Wien--ウィーン工科大学(TU Wien)で、新しい分光法が開発された:一連のレーザパルスを使用して、化学分析を以前よりもはるかに速く、より正確に行うことができる。

自然界の環境サンプルを分析する場合、あるいは化学実験を監視する場合でも、特定のガスの微量な痕跡でも極めて正確に「嗅ぎ分ける」ことができる高感度センサが必要になることがよくある。この目的のためには、ラマン分光法の変種がよく用いられる:異なる分子は、異なる波長の光に対して非常に特徴的な方法で反応する。サンプルに適切な光を照射し、サンプルによって光がどのように変調されるかを正確に測定すると、サンプルに特定のガスが含まれているかどうかを知ることができるのである。

しかし、TU Wienの科学者たちは、この分野で大きな一歩を踏み出した:このような実験に適した光を生成し、正確に制御するための新しい方法が開発された。これにより、以前よりもはるかに高い精度が得られるだけでなく、可動部品なしでも機能するので、これまでの最高の技術よりもはるかに高速である。この手法は、学術誌「Light: Science and Applications」に掲載された。

誘導ラマン放出:不安定に変動する原子
この新技術の基礎となるのは、いわゆる「誘導ラマン散乱」(SRS)である。これは、複数の光子が同時に関与する量子物理プロセス。サンプルに微妙に波長の異なる2つの光を照射する。したがって、サンプル中の分子は、わずかに異なる量のエネルギーをもつ2つのフォトンが同時に当たる可能性がある。その後、高エネルギーのフォトンと低エネルギーのフォトンが突然2つの低エネルギーのフォトンになり、残りのエネルギー差により、分子は突然以前よりも少し多くのエネルギーを持つようになる。例えば、分子の原子を刺激して、ぐらついたり回転させたりすることができる。

これは、高エネルギーのフォトンの数が減り、低エネルギーのフォトンの数が増えたことを意味する。これはまさに、探している分子が実際にサンプルに含まれていることを知る方法である。

「しかし、通常、これは骨の折れるプロセスである」と、今回の論文の筆頭著者であるTU Wienフォトニクス研究所のHongtao Huは説明している。「例えば、結晶に光を当ててから角度をゆっくりと回転させたり、結晶の温度を変えたりして、時間をかけてサンプルに様々な波長が当たるようにするなど、1つの波長を次々に慎重に試す必要がある」。

フェムト秒レーザパルス
とは言え、TU Wienでは、Andrius Baltuska教授の研究グループが、スイスのPaul Scherrer Institute、SwissFELのDr. Xinhua Xie、米国テキサスA&M大学の物理学・吻学部のAlexei Zheltikov教授と協力して、特殊な光源を用いてラマンを測定した。Andrius Baltuskaのグループは、この光源に何年も取り組んでいた。今回、Hongtao Huたちの研究グループは、広範なコンピューターシミュレーションを通じて、従来の方法よりもはるかに高い精度を達成できることを実証した。「われわれは1つの波長だけでなく、一連の超短光パルスを生成する。これらのパルスのそれぞれは、フェムト秒の範囲の持続時間を持っている」と同教授は説明している。

これらの光パルスシリーズには特定の波長はなく、多くの異なる波長で構成されている。決定的な要因は、光波の位相、つまり波の山と谷の位置である。「位相を変えることで、パルスを構成するすべての波長を同時に少しずらすことができる」と、Hongtao Huは説明している。「その後、極めて特殊な波長ではラマン信号が得られるが、他の波長では得らない。したがって、われわれの方法では、可動部分を調整することなく、非常にエレガントな方法で特定の波域を調べることができる。原理的には、これにより、非常に異なる分子を区別することができる。」

かつてないほど高いスペクトル分解能
Hongtao Huは、一連の光パルスが長ければ長いほど、精度が高くなることを実証することができた:「したがって、一連の個々のパルスで、これまで以上に大幅に高いスペクトル分解能を達成できる」とHongtao Huは話している。原理的には、スペクトル分解能が十分に高くない場合、信号がほぼ同じに見える異なる分子に由来するラマン遷移を互いに区別することも可能である。この新技術の用途は、環境分析から化学産業における品質保証、生物学的イメージングまで多岐にわたる。
(詳細は、https://www.tuwien.at/)