April, 22, 2024, 東京--東京大学大学院理学系研究科の井手口拓郎准教授らは、約100ナノメートルの世界最高空間分解能を持つ中赤外顕微鏡の開発に成功した。
中赤外顕微鏡は、可視光を用いた通常の光学顕微鏡では捉えられない分子振動の空間分布を調べることができる特殊な顕微鏡だが、空間分解能が通常の光学顕微鏡に比べて約10倍程度低い(数千nm程度)という原理的な欠点がある。そのため、細胞の観察など、細かい構造を見るのには不向きである。
この研究では、原理限界を大幅に超える約100nmの空間分解能を持つ中赤外顕微鏡を開発し、細菌内部の生体分子の分布を観察することに成功しました。この技術により、微細な構造を持つ物質の非破壊、非標識、非接触での分子振動イメージングが可能になり、生物学、医学、材料工学などの分野での幅広い利用が期待される。
発表内容
中赤外顕微鏡は、非破壊、非標識、非接触で物質の分子組成の空間分布を観察することのできる特殊な顕微鏡である。しかし、波長の長い中赤外光を用いた手法であるため、空間分解能は光の回折限界で決まる数千nm程度にとどまりまる。一方で、従来技術の空間分解能の限界を突破する中赤外フォトサーマル顕微鏡と呼ばれる技術が近年開発されている。この顕微鏡は、中赤外光の吸収によって発生する熱による屈折率の変化を可視光の顕微鏡で検出することで、中赤外光の回折限界以下の空間分解能を実現する手法である。しかし、この技術の空間分解能の限界を引き出す手法は確立していなかった。
東京大学大学院理学系研究科の井手口拓郎准教授らは、中赤外フォトサーマル顕微鏡に新たな技術を導入することで、約100nmの世界最高空間分解能の実現に成功した。従来の中赤外フォトサーマル顕微鏡では、用いている対物レンズの開口数の低さと、パルス幅の長い中赤外光により生じる熱拡散という二つの原因により空間分解能が制限されていた。この研究では、高い開口数を持つ対物レンズを用いて高空間分解イメージングを実現する開口合成法を用いることで前者の問題を解決し、また、ナノ秒以下のパルス幅を持つ中赤外パルス光源を開発することで、後者の問題を解決することに成功した。
これらの技術により、120nmの空間分解能を実現した。さらに、可視光の波長と対物レンズの開口数を最適化することで、今後、100nm以下の分解能へと改善する余地がある。開発した顕微鏡を使用して、細菌内部のタンパク質や脂質といった生体分子の分布を非標識で可視化し、定量することに成功した。
(詳細は、https://www.s.u-tokyo.ac.jp)