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超低ノイズのマイクロ波信号を生成するフォトニックチップ

April, 9, 2024, New York--10年前に米国国立標準技術研究所(NIST)で開発された光リファレンスと光周波数コムを利用した光周波数分割(OFD)は、これまでで最も安定したマイクロ波信号を生成するために使用されている。このアプローチでは、通常、複数の高速調整可能なレーザ光源と安定化ステージが必要であり、その結果、システムは複雑性が高く、設置面積が大きくなる。

今回、米国コロンビア大学(Columbia University)の研究チームは、シャープペンの先端に収まるフォトニックチップ上に1つのレーザでOFDを実装したと発表した(Nature、doi:10.1038/s41586-024-07136-2)。発表によると、このデバイスは、集積チップでこれまでに達成された中で最も低い周波数ノイズを持つ16GHzのマイクロ波信号を生成する。

OFDの小型化
安定したマイクロ波源は、時計や情報の担い手として、様々な電子機器に必要な部品である。特に計測や高速データ通信などの高度なアプリケーション向けに、これらのデバイスの性能を向上させるには、位相ノイズをさらに低減する必要がある。

OFDは、超低ノイズマイクロ波発生の分野に革命をもたらし、今日の原子時計の基礎を形成している。基本的に、テラヘルツ領域の間隔を持つ2つのレーザ周波数は、それぞれ光周波数コムの最も近い2つの周波数にロックされている。次に、結果として生じる2つのレーザの周波数間隔は、コムによって効果的に「分割」される。また、THzビート周波数のノイズも分周されるため、極めて低ノイズのマイクロ波信号が得られる。

研究の著者、Alexander Gaeta他は、OFD技術を小型化し、高品質のマイクロ波源をよりコンパクトなフォームファクタで利用できるようにすることを目指した。「超低ノイズのマイクロ波源は、無線通信やレーダセンシングに不可欠。現在のシステムは比較的大型で、持ち運びができない。われわれのデバイスは、小型で堅牢、かつ携帯性の高いパッケージに統合できる可能性を秘めている」とGaetaはコメントしている。

簡素化された設計
チームのデバイスは、わずか1mm^2の小さな領域で、チップ上で完全にOFDを実行する。
光結合された2つの窒化ケイ素(SiN)微小共振器を励起する単一の連続波レーザのみを使用する。1つのマイクロ共振器は、周波数間隔がTHz領域に設定された2つの新しい周波数を生成する光パラメトリック発振器(OPO)を生成する。OPOの量子相関により、この周波数差のノイズは、励起レーザのノイズの数千分の1にすることが可能である。

第2の微小共振器は、マイクロ波X〜W帯域のモード間隔を有する光周波数コムを生成するように調整される。OPOからの少量の光がコム発生器に結合し、マイクロ波コム周波数がTHz発振器にロックされ、自動的に光周波数分割が行われる。

コロンビア大学工学教授、Michal Lipsonのグループを含むGaetaと同氏のチームは、電子機器を必要とせずにOFDを達成し、デバイスを大幅に簡素化したと報告している。この技術は、将来の通信機器の新しい設計や、自動運転車に使用されるマイクロ波レーダーの精度向上につながると考えられている。

「低ノイズの光パラメトリック発振器は、新しい材料設計を用いることで、さらに低ノイズで実現できる。現在のデバイスは、SiNのマイクロケルビンレベルの温度変動によって制限される。新しいフォトニックチップ材料を採用することで、正味の屈折率変化をゼロにし、温度変動の影響を完全に抑制したいと考えている」とGaetaは話している。