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EPFL、免疫系が体を攻撃しないようにする「スイッチ」

March, 8, 2024, Lausanne--EPFLの科学者は、免疫系が誤って体自身の組織を攻撃するのを防ぐために重要な、細胞がタンパク質cGASに分解のマークを付けるメカニズムを明らかにした。

われわれの体では、有害な病原体から身を守るために設計された細胞とタンパク質の複雑なシステムである免疫系を通じて、細胞が侵入者を常にかわしているため、微視的な戦いが繰り広げられている。その中心的な構成要素の1つは、センチネル(見張り)として機能し、外来DNAを検出して免疫応答を開始する酵素サイクリックGMP-AMP合成酵素(cGAS)である。

とは言え、免疫系は、cGASが誤って体内の組織を攻撃し、自己免疫疾患につながるのを防ぐために正確な制御を必要としている。現在、世界人口の約10%が自己免疫疾患を罹患している。

これまでの研究で、これがどのように起こるかが少し明らかになっている。細胞分裂(有糸分裂)中、細胞の核を保護する膜である核膜が破壊され、cGASが核にすばやく再配置される。そこで、ヌクレオソーム(細胞内のDNAパッケージングの基本構造単位)に付着し、BAFと呼ばれる別のタンパク質で覆われる。

これにより、cGASは不活性で所定の位置に固定され、細胞自身のDNAと誤って相互作用することがなくなる。これは、免疫準備と細胞ゲノムの完全性の保護の間の洗練されたバランスを表している。問題は、細胞がこれを他の日常的な機能とどのように調整するかである。

EPFLのAndrea Ablasserのグループによる新しい研究は、特に有糸分裂として知られる細胞分裂の重要な段階で、cGASがどのように調節されるかに光を当てている。この研究成果を報告する論文が、Nature に掲載されている。

研究チームは、高度なイメージングと分子技術を用いて、cGASが核内で選択的に分解され、細胞自身のDNAに誤って反応するのを防ぐ様子を観察した。その結果、このプロセスはCRL5-SPSB3として知られるタンパク質複合体によって媒介され、この複合体がcGASの特定のモチーフを認識し、核内で破壊のためにタグ付けすることを発見した。研究チームは、構造生物学、生化学、細胞生物学を用いて、cGASとタンパク質複合体の相互作用を原子レベルで可視化した。

具体的には、CRL5-SPSB3はcGASにユビキチン(Ubiquitin)と呼ばれるタンパク質を付加する。ユビキチンは、その名前が示すように、真核細胞全体に遍在しており、その機能の1つは、他のタンパク質に死を示すことである。また、cGASのユビキチン化は、cGASを破壊し、侵入者の脅威が無力化されると、センチネルを効果的に不活性化する。

この研究は、cGAS-SPSB3複合体の構造を解明することで、細胞核内でcGASがどのように制御されているかをマッピングし、免疫系の制御ネットワークの精巧さを浮き彫りにしている。

また、その含意は基礎科学にとどまらず、自己免疫疾患のように免疫系が過剰に活動している疾患や、慢性感染症やガンのように免疫系が活動していない疾患を治療するための新しい戦略を模索することができる。例えば、cGAS活性を調節することで、ガン免疫療法の有効性を高めたり、自己免疫疾患を予防するための新しいアプローチを提供したりできる可能性がある。