February, 7, 2024, 名古屋--名古屋大学、九州大学の研究チームは、次世代有機EL発光材料の発光効率を増幅する新しい量子機構の理論的発見に成功した。
有機ELにおいて電気的に励起された発光分子は、25%の励起一重項状態と75%の励起三重項状態を形成する。非発光性の励起三重項の蓄積は発光量子効率低下の原因となるため、スピン反転によりこれを励起一重項へと変換して発光させる熱活性化遅延蛍光(TADF)機構が注目を浴びている。TADF機構は100%に迫る高い内部量子効率を実現できる一方、スピン反転の効率が低いという課題があり、これを克服するための新たな分子設計理論の確立が待たれている。
研究チームは、TADFの律速過程であるスピン反転を飛躍的に高速化する新しい量子機構を発見した。この量子機構では、分子の振動が誘発するスピン反転効果と、高次の励起三重項状態を用いるスピン反転効果とが協調し合うことでスピン反転が飛躍的に高速化する。この機構に基づく新理論を導き出し、従来理論での見積もりと比べて約1000倍以上のスピン反転速度をもたらす加速効果を生み出すことをシミュレーションから発見した。有機EL発光材料の開発は既存の理論に縛られているが、今後の研究により、この手法が明らかにした新原理に基づく高性能な有機EL発光材料の創出が期待される。
研究成果は、2024年2月1日午前4時(日本時間)付アメリカ科学振興協会「Science Advances」でオンライン公開された。
研究チーム
東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の羽飼 雅也 博士前期課程学生、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の柳井 毅 教授、藤本 和宏 特任准教授、国立大学法人 九州大学高等研究院の安田 琢麿 教授ら
(詳細は、https://www.kyushu-u.ac.jp)