January, 16, 2024, Cambridge--MITの新しい方法により、光デバイスは設計仕様にさらに近くなり、精度と効率が向上する。
フォトリソグラフィは、光を操作して表面にパターンを正確にエッチングする技術で、コンピュータチップやレンズなどの光学デバイスの製造に一般的に使用されている。しかし、製造プロセス中のわずかな誤差により、製造されたデバイスは設計者の意図とは異なることがある。
この設計と製造のギャップを埋めるために、MITと香港中文大学の研究者は、マシンラーニングを使用して、特定のフォトリソグラフィ製造プロセスを模倣するデジタルシミュレータを構築した。この手法は、フォトリソグラフィシステムから収集された実際のデータを利用するため、システムの設計方法をより正確にモデル化できる。
研究チームは、このシミュレータを設計フレームワークに統合し、計算カメラによる画像生成などの下流工程で製造されたデバイスの性能をエミュレートする別のデジタルシミュレータと統合した。これらのコネクテッドシミュレータにより、ユーザーは、その設計によりよく適合し、最高のタスクパフォーマンスに到達する光学デバイスを製造することができる。
この技術は、科学者やエンジニアが、モバイルカメラ、拡張現実、医用画像、エンターテインメント、テレコムなどのアプリケーション向けに、より正確で効率的な光学デバイスを作成するのに役立つ。また、デジタルシミュレータの学習パイプラインは実世界のデータを利用するため、幅広いフォトリソグラフィシステムに適用可能である。
「このアイデアは簡単なように聞こえるが、これまで試されてこなかったのは、実際のデータにはコストがかかることと、ソフトウエアとハードウエアを効果的に調整して忠実度の高いデータセットを構築する方法に前例がないからだ」と、機械工学院生でこの研究を説明するオープンアクセス論文の共同筆頭著者、Cheng Zhengは話している。「われわれは、例えば、特性評価ツールやデータ探索戦略の開発と試行など、リスクを取り、広範な調査を行って、作業スキームを決定した。その結果、実際のデータは、解析方程式で構成されたシミュレータによって生成されたデータよりもはるかに効率的かつ正確に機能することが示され、驚くほど良好である。費用がかかり、最初は愚かに感じるかもしれないが、やる価値はある」と同氏は続けている。
Zhengは、共同筆頭著者の香港中文大学の大学院生Guangyuan Zhaoとともに論文を執筆した。同氏のアドバイザー、MITの機械工学と生物工学の教授Peter T Soも共同執筆者である。研究成果は、SIGGRAPH Asia Conferenceで発表される。
光によるプリンティング
フォトリソグラフィでは、光のパターンを表面に投影し、化学反応を起こして基板に特徴をエッチングする。しかし、製造されたデバイスは、光の回折のわずかな誤差と化学反応のわずかな変動のために、わずかに異なるパターンとなる。
フォトリソグラフィは複雑でモデル化が難しいため、既存の設計アプローチの多くは物理学から導き出された方程式に依存している。これらの一般方程式は、製造プロセスについてある程度の理解を与えてくれるが、フォトリソグラフィシステムに固有のすべての偏差を捉えることはできない。これにより、デバイスの性能が現実の世界で低下する可能性がある。
MITの研究チームは、ニューラルリソグラフィと呼ぶこの技術のために、物理ベースの方程式をベースとしてフォトリソグラフィシミュレータを構築し、ユーザーのフォトリソグラフィーシステムからの実際の実験データでトレーニングされたニューラルネットワークを組み込んでいる。このニューラルネットワークは、人間の脳に大まかに基づいたマシンラーニングモデルの一種で、システム固有の偏差の多くを補正するように学習する。
研究チームは、フォトリソグラフィシステムを使用して製造する、さまざまなサイズと形状をカバーする多くの設計を生成することにより、この方法のデータを収集する。最終的な構造を測定して設計仕様と比較し、それらのデータをペアにして、デジタルシミュレータ用のニューラルネットワークをトレーニングする。
「学習済みシミュレータの性能は、入力されるデータに依存し、方程式から人工的に生成されたデータでは、現実世界の偏差をカバーできない。そのため、実世界のデータを持つことが重要となる」(Zheng)。
デュアルシミュレータ
デジタルリソグラフィシミュレータは、デバイス表面に光がどのように投影されるかを捉える光学モデルと、光化学反応がどのように起こって表面にパターンを生成するかを示すレジストモデルの2つのコンポーネントで構成されている。
下流のタスクでは、この学習したフォトリソグラフィシミュレータを物理ベースのシミュレータに接続し、回折レンズが当たる光をどのように回折するかなど、製造されたデバイスがこのタスクでどのように機能するかを予測する。
ユーザーは、デバイスで達成したい結果を指定する。次に、これら 2 つのシミュレータは、より大きなフレームワーク内で連携して動作し、これらのパフォーマンス目標を達成する設計を作成する方法をユーザーに示すことができる。
「われわれのシミュレータを使用すると、製造されたオブジェクトは、計算カメラなどの下流のタスクで可能な限り最高のパフォーマンスを得ることができる。これは、将来のカメラを小型化してより強力にするための有望な技術である。ポストキャリブレーションを使用してより良い結果を得ようとしても、フォトリソグラフィモデルをループに入れるほど良くないことがわかっている」(Zhao)。
研究チームは、光が当たると蝶の画像を生成するホログラフィック要素を作製することで、この技術をテストした。他の技術を使用して設計されたデバイスと比較すると、そのホログラフィック要素は、設計により近いほぼ完璧な蝶を生成した。また、他の装置よりも画質の良いマルチレベル回折レンズも製造した。
将来的には、研究者たちはアルゴリズムを強化して、より複雑なデバイスをモデル化し、民生用カメラを使用してシステムをテストしたいと考えている。さらに、深紫外線や極端紫外線を使用するシステムなど、様々なタイプのフォトリソグラフィシステムで使用できるようにアプローチを拡大したいと考えている。
この研究の一部は、米国国立衛生研究所(U.S. National Institutes of Health)、フジクラ株式会社、香港イノベーション・アンド・テクノロジー基金(Hong Kong Innovation and Technology Fund)の支援を受けている。