December, 26, 2023, Lausanne--マイクロインプラントやナノインプラントなど、人体内の重要な情報を収集できる生物学的コンピューティングマシンは、医療を変革している。しかし、コミュニケーションのためにそれらをネットワーク化することは困難であることが証明されている。今回、EPFLの研究者を含むグローバルチームが、複数のトランスミッタを持つ分子ネットワークを可能にするプロトコルを開発した。
まず、モノのインターネット(IoT)があり、現在、コンピュータサイエンスと生物学のインタフェースであるInternet of Bio-Nano Things (IoBNT)は、医療とヘルスケアに革命を起こすと期待されている。IoBNTとは、データを収集して処理するバイオセンサ、体内で医療検査を行うナノスケールのLabs-on-a-Chip、病原体を検出できる生物学的ナノマシンを設計するための細菌の使用、血流の中を泳いで標的薬物の送達と治療を行うナノロボットを指す。
「全体として、これは極めてエキサイティングな研究分野だ。バイオエンジニアリング(生物工学)、合成生物学、ナノテクノロジーの進歩により、ナノバイオセンサは医療に革命をもたらすという考えである。ナノバイオセンサは、現在のデバイスや大型のインプラントでは不可能な場所に到達し、何かをすることができるからである」と、EPFLのコンピュータ通信科学部(IC)のセンシングおよびネットワークシステム研究室の責任者Haitham Al Hassanieh助教授は説明している。
とは言え、この最先端の研究分野がどんなにエキサイティングであっても、誰かの体内にナノロボットが入った場合、どのようにコミュニケーションをとるかという、根本的に大きな課題が残っている。ワイヤレス無線機などの従来技術は、ペースメーカーや除細動器などの大型インプラントには適しているが、マイクロサイズやナノサイズに拡張することはできず、ワイヤレス信号は体液を透過しない。
身体そのものに触発された、いわゆる生体分子コミュニケーションの分野に入る。電磁波ではなく、生体分子をキャリアと情報の両方として利用し、生物学における既存コミュニケーションメカニズムを模倣している。最も単純な形式では、分子粒子を血流に放出するか放出しないかによって「1」ビットと「0」ビットをエンコードする – ワイヤレスネットワークのON-OFF-Keyingに似ている。
「生体分子コミュニケーションは、ナノインプラントのネットワーク化に最も適したパラダイムとして浮上している。データを分子にエンコードして送信、それを血流に通し、ホルモンのように、どこに行くべきか、いつ治療薬をリリースするかを指示することで、データを送ることができるというのは、信じがたいアイデアである」と、Al Hassaniehは話している。
最近、Al Hassaniehとそのチームは、米国の研究者と共同で、データ通信に関する主要な年次会議であるACM SIGCOMM 2023で論文「Towards Practical and Scalable Molecular Networks」を発表し、複数のトランスミッタを備えた分子ネットワークを可能にするMoMA(Molecular Multiple Access)プロトコルの概要を説明した。
「既存の研究のほとんどは非常に理論的であり、理論は生物学を考慮していないため、うまくいかない。例えば、心臓が鼓動するたびにジッタが起こり、体は内部のコミュニケーションチャネルを変化させる。既存理論のほとんどは、分子を送り込むチャネルが非常に安定しており、変化しないことを前提としている。実際、変化のスピードが速い」(Al Hassanieh)。
MoMAでは、パケット検出、チャネル推定、符号化/復号化スキームを導入し、分子ネットワークのユニークな特性を活用して既存の課題に対処した。チームは、チューブとポンプで血管をエミュレートした合成実験テストベッドでプロトコルを評価し、最先端の技術を大幅に上回る性能を発揮しながら、最大4つのトランスミッタに拡張できることを実証した。
研究チームは、現在の合成テストベッドでは、分子ネットワークのプロトコル設計に関連するすべての課題を捉えていない可能性があり、実用的で展開可能な分子ネットワークを実現するには、ウェットラボでのマイクロ-インプラントとマイクロ-流体の生体内試験が必要であると認めている。しかし、チームはこのビジョンに向けた第一歩を踏み出したと考えており、テストベッドの基礎となる拡散モデルと流体力学モデルは分子コミュニケーションの基本であるため、分子ネットワークを設計するための洞察は維持されると考えている。
「この分野は新しいコミュニケーションの形なので、とても張り切っている。われわれはシステムグループであり、何かを作り、それを機能させるのが好きだ。生体分子コミュニケーションの専門性を進展させるのに時間がかかったが、今は共同研究者を見つけて、物事を動かすことができる段階に来ている。これはサイエンス・フィクション(SF)だと考えるだろうが、科学的な事実へと急速に移行している」とAl Hassaniehは結論づけている。