December, 21, 2023, 大阪--NIMSと大阪大学大学院理学研究科、金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)を中心とした国際共同研究チームは、走査型トンネル顕微鏡の探針を用いて単分子の構造を変化させ、キラリティー(右手と左手のように鏡像が重なり合わない性質)の制御と不対電子(対になっていない電子で、対になった電子よりも通常反応性が高い)が二つあるジラジカルの合成を世界で初めて実現した。
今までの有機合成では、一つの分子ユニットごとのキラリティの制御や極めて反応性の高いジラジカルの合成は困難だった。また、ジラジカルの電気特性や磁性に関する研究はあまり進んでいなかった。そのため、単分子レベルの構造を制御できる超精密な化学反応技術の開発が望まれていた。
今回、研究チームは、極低温かつ超高真空下で動作する走査型トンネル顕微鏡の探針を用いて、三次元のナノ構造体中にある特定の分子ユニットをトンネル電流で励起させ、その分子の構造を任意に変化させる単分子レベルの反応技術を開発した。トンネル電流を注入する単分子内の部位や位置、さらに、その時の電圧などの反応パラメータを精密に制御することにより二つのキラリティー構造とジラジカルの合計三つの構造を作り分けた。その高い制御性を示す目的で、バイナリーやターナリーのアスキーコードを用いて同グループの名称である(“NanoProbe GRP. NIMS©“)の記録に成功した。
今後、研究チームは、この成果をより発展させ、単分子をボトムアップで合成し、新奇ナノ炭素構造体の実現を目指していく。また、ジラジカルのユニットにはそのスピン状態に対応した交換相互作用が発生するため、プローブ顕微鏡の探針下で動作する究極的な量子マテリアルへの展開も期待できる。
研究は、NIMSマテリアル基盤研究センターナノプローブグループ川井茂樹グループリーダー、Yuan Zhangyu NIMSジュニア研究員、Kewei Sun ICYS研究員、Oscar Custance上席研究員、大阪大学大学院理学研究科化学専攻久保孝史教授、金沢大学ナノ生命科学研究所/Aalto University Adam S. Foster教授からなる研究チームによって、JSPS科研費22H00285の一環として行われた。
研究成果は、Nature Communications誌の2023年11月25日発行号(Vol. 14)に掲載された。