December, 21, 2023, 金沢/高知県香美市--高知工科大学の稲見栄一准教授、金沢工業大学の西岡圭太准教授、大阪公立大学の金崎順一教授らの研究グループは、光を当てると物質の構造や性質が変化する「光誘起相転移」の初期プロセスを世界で初めて原子スケールで観察することに成功した。
また、この相転移における一連のプロセスを光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを見出した。光誘起相転移を応用すると、従来の手法ではアクセスできないような未知の材料を創出できるようになる。今回の成果は、そのような革新的な物質創成法の実現に大きく貢献し、新しい材料の開発を加速させるものと期待できる。
研究成果は、Springer Nature社が刊行するオープンアクセス電子ジャーナル誌「Scientific Reports」に、12月15日(金) 19時(日本時間)に公開された。
研究内容と成果
研究グループでは、物質表面を超高解像度で観察できる走査型トンネル顕微鏡を活用して、光誘起相転移に伴う構造の変化を原子レベルで直接検出しようと試みた。実験では、炭素原子から成る黒鉛(グラファイト)が光照射によってダイヤファイトと呼ばれる秩序構造へ相転移する現象を対象とした。その結果、光を照射した黒鉛上では、初めにわずか2個の炭素原子から成る0.5nm程度の核が形成されること、さらに、その核が、周辺へ拡大しながらドメインを形成し、そのサイズが約5nmに達すると、構造が黒鉛からダイヤファイトへ大きく変化することを明らかにした。これら一連の相転移プロセスは、理論的には予測されていたが、今回、走査型トンネル顕微鏡を用いた原子分解能での構造観察により、世界で初めて検出に成功した。
また、上記の相転移プロセスが、当てる光の波長に依存して大きく変化することを発見した。短い波長の光を当てると、黒鉛上のいたるところで核が効果的に形成されるが、長い波長の光を当てると、核の形成よりも核がドメインへ拡大するプロセスが優先的に生じる。この結果は、光のチューニングにより、相転移の一連のプロセスを原子レベルで制御できること示している。
今後、このような原子スケールでの知見をさらに蓄積していくことで、光で特定の相転移を選択的かつ効率的に引き起こせるようになる。これにより、光誘起相転移を利用した革新的な材料創成法の実現に貢献し、従来の物質科学の枠を超えた新しい材料開発を加速させると、微細加工技術や材料科学の分野での応用が期待できる。
(詳細は、https://www.kanazawa-it.ac.jp)