December, 13, 2023, 大阪--大阪大学、KEK、東北大学などの研究グループは、電子間の多体効果である近藤効果により伝導電子の有効質量が増大する「重い電子」を、原子一層の厚みしか持たない単原子層物質において初めて実現した。
希土類元素を含む化合物では、希土類元素が有する局在的な開殻4f電子により、ネオジム磁石のような強力な永久磁石や、高輝度な蛍光剤などの様々な機能性が現れる。近藤効果による重い電子もその一つであり、高温超伝導などの特殊な超伝導状態をはじめとする、現在の物性物理学の中心テーマである強相関物性の起源となることが知られている。他方で、近年のナノテクノロジーの発展に伴い、グラフェンに代表される低次元(二次元・一次元)材料研究が活発に行われている。これまで、希土類化合物における重い電子は、主に三次元固体物質で盛んに研究されてきた現象だった。そのため、二次元系の極限である原子一枚の厚みしか持たない単原子層物質において、重い電子が実現するかどうかは、これまで明確ではなかった。
今回、研究グループは、単原子層イッテルビウム・銅(YbCu2)薄膜の作製に成功し、その電子構造をシンクロトロン光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)によって調べた。その結果、YbCu2原子層内を伝播する二次元的な伝導電子が、低温において重い電子を形成することを明らかにした。この結果は、原子一枚の厚みに閉じ込めた重い電子状態を世界で初めて実現したことを表している。これにより、新奇超伝導などの物性物理学に残された量子臨界現象への次元性の役割の解明が進むとともに、近年爆発的に研究が進む原子層物質に、新たな機能性を有する物質が仲間入りすることとなり、次世代材料開発や新しいエレクトロニクス素子、量子コンピュータ設計開発の指針となることが期待される。
研究成果は、「Nature Communications」に公開された。
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)
研究グループ
大阪大学大学院生命機能研究科 中村拓人 助教(理学研究科兼任)、木村真一 教授(理学研究科兼任、自然科学研究機構分子科学研究所 教授)、同理学研究科 杉原弘基(博士前期課程)、陳奕同(博士後期課程)、同工学研究科 湯川龍 助教 (研究当時。現東北大学)、量子科学技術研究開発機構(QST) 大坪嘉之 主任研究員、自然科学研究機構分子科学研究所 田中清尚 准教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所 北村未歩 助教(研究当時。現QST)、東北大学多元物質科学研究所 組頭広志 教授ら