November, 27, 2023, 東京--東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の坪内健人大学院生、沙川貴大教授、吉岡信行助教らの研究グループは、量子コンピュータで計算を実行中に発生するエラーを、量子エラー抑制という手法によって取り除く際に必要な計算時間の理論限界を明らかにした。
量子エラー抑制とは、エラーの多い量子コンピュータで計算を複数回実行し、その実行結果を古典コンピュータに事後処理させることによって、エラーのない真の出力を予測する手法群の総称。
研究では、量子推定理論を用いた解析によって、量子エラー抑制に必要な量子コンピュータの実行回数=計算時間が、量子コンピュータの演算回数に対して指数的に増大するという理論限界を世界で初めて導出した。また、エラーの多い量子コンピュータの計算結果を定数倍するという単純な手法により、導出した計算時間の限界を達成可能であるということも明らかにした。
この研究成果は、量子エラー抑制に基づく現行の量子コンピュータの限界を明らかにすることで、量子エラー訂正と呼ばれる、より抜本的な対策を行う機構に基づく量子コンピュータの早期開発の必要性を提示する。さらに、得られた最適手法の知見を量子エラー訂正とハイブリッドに組み合わせることで、量子コンピュータの早期の実用化に貢献することも期待される。
発表の要点
・量子コンピュータのエラー抑制技術の限界を理論的に証明し、量子エラー抑制のみを用いる現行の計算方式では、実行可能な演算回数が制限されることを、世界で初めて明らかにした。
・解明した理論限界を達成するような、エラーを最も効率よく除去できる最適な量子エラー抑制手法を、新たに同定した。
・この本研究成果は、量子エラー抑制のみを用いる現行の計算方式から、量子エラー訂正機構を備えた新規の計算方式への転換の必要性を提示する。さらに、量子エラー訂正に基づく新規計算方式にこの研究で得られた最適手法を応用することで、量子コンピュータの早期の実用化に貢献することも期待される。
(詳細は、https://www.t.u-tokyo.ac.jp)