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レーザを使って3Dプリントされたスチールを「過熱し叩く」

November, 9, 2023, Cambridge--ケンブリッジ大学の研究チームは、コストを削減し、資源をより効率的に利用するのに役立つ、金属を3Dプリントする新しい方法を開発した。

研究チームが開発したこの方法は、3Dプリンティング中に構造改質を金属合金に「プログラム」し、何千年もの間使用されてきた「加熱と叩き」プロセスなしで特性を微調整することができる。

新しい3Dプリンティング法は、両方の長所を兼ね備えている。つまり、3Dプリンティングが可能にする複雑な形状と、従来の方法で可能だった金属の構造と特性をエンジニアリングする能力である。この研究成果は、Nature Communications に掲載された。

3Dプリンティングには、他の製法に比べて複数の利点がある。たとえば、3Dプリンティングを使用すると、複雑な形状の製造がはるかに簡単で、従来の金属製造方法よりも非常に少ない材料を使用するため、より効率的なプロセスになる。とは言え、重大な欠点もある。

「3Dプリンティングは非常に将来性があるが、主に製造コストが高いため、産業界ではまだ普及していない。これらのコストの主な要因の1つは、製造後に材料に必要な微調整の量である」と、Dr Matteo Seitaはコメントしている。同氏はケンブリッジ大学工学部で研究を主導した。

青銅器時代から、金属部品は加熱と叩く工程を経て作られてきた。材料をハンマーで硬化させ、火で柔らかくするこのアプローチにより、金属を目的の形状に成形すると同時に、柔軟性や強度などの物理的特性を付与することができる。

「加熱や叩くことが効果的なのは、素材の内部構造を変化させ、その特性をコントロールできるからである。何千年後もまだそれが使われている理由は、そこにある」(Seita)。

現在の3Dプリンティング技術の大きな欠点の1つは、内部構造を同じ方法で制御できないことであり、それが、多くの後工程の変更が必要な理由である。「われわれは、加熱や叩くことを必要とせず、その構造エンジニアリング能力の一部を回復させる方法を考え出そうとしている。そうすれば、コスト削減に役立つ。金属に必要な特性を制御できれば、3Dプリンティングのより環境に優しい側面を活用できる」(Seita)。

シンガポール、スイス、フィンランド、オーストラリアの同僚と協力して、Seltaは、3Dプリントされた金属の新しい「レシピ」を開発した。これにより、レーザで溶かされるにしたがい、材料の内部構造を高度に制御できるのである。

溶融後の材料の凝固方法と、プロセス中に発生する熱量を制御することで、研究チームは最終材料の特性をプログラムすることができる。通常、金属は強くて丈夫にになるように設計されているため、構造的アプリケーションに安全に使用できる。3Dプリントされた金属は本質的に強いが、脆弱でもある。

研究チームが開発した戦略は、3Dプリントされた金属部品を比較的低い温度の炉に入れると、微細構造の制御された再構成を引き起こすことで、強度と靭性の両方を完全制御する。その方法は、従来のレーザベースの3Dプリンティング技術を使用しているが、そのプロセスに少し手を加えている。

「レーザは、3Dプリント中に金属を硬化させるための『微細なハンマー』として使用できることを確認した。しかし、同じレーザで2回目の金属を溶かすと、金属の構造が緩和され、部品を炉に入れるときに構造的再構成が可能になる」(Seita)。

理論的に設計され、実験的に検証された3Dプリントされた鋼は、丈夫な材料と強靭な材料を交互に使用して作られており、その性能は加熱と叩きによって作られた鋼に匹敵する。

「この手法は、金属3Dプリンティングのコスト削減に役立ち、ひいては金属製造業界の持続可能性を向上させることができるとわれわれは考えている。近い将来、炉内の低温処理を省略して、エンジニアリング用途で3Dプリント部品を使用する前に必要なステップ数をさらに削減できるようにしたいと考えている」とSeitaはコメントしている。