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EPFL、ウイルスの動きを空前の詳細さで「見る」新しいイメージング技術

October, 25, 2023, Lausanne--EPFLの研究チームは、素早いタンパク質動態を捉えるための新しいイメージング技術を開発した。極低温電子顕微鏡のマイクロ秒時間分解バージョン手法により、ウイルスの挙動を前例のない詳細さで観察することができた。

タンパク質は生物学的システムのワークホースであり、並外れた精度と速度でその仕事を遂行する。何年もの間、タンパク質の作用を観察することは大きな課題であり、イメージング方法では、エレガントで素早い動きを捉えるのに十分な速度と解像度が欠如していた。

現在、EPFLのUlrich Lorenz教授をリーダーとする研究チームは、クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)の時間分解能をマイクロ秒に押し下げる新しいイメージング技術を使用して、ウイルスの高速ダイナミクスをリアルタイムで観察している。研究成果は、Nature Communications に掲載された。

チームは、タンパク質などの生体分子の写真を原子精度で撮影できる技術であるcryo-EMに基づいて、2021年に最初にイメージング技術を開発した。cryo-EMでは、サンプルはガラス質の氷に埋め込まれている。これは、水が急速に凍結して結晶化が起こらないときに得られるガラス状の氷。ガラス化したサンプルでは、光の代わりに電子ビームを使用して画像を形成する装置である電子顕微鏡で、その分子構造の高解像度写真を撮ることができる。

革新的なcryo-EM法は、2017年に発明者のJacques Dubochet, Joachim Frank, and Richard Hendersonがノーベル化学賞を受賞した。2021年、Lorenzとそのラボはcryo-EMの機能を拡張し、ガラス化したサンプルをレーザパルスで急速に溶融することにより、マイクロ秒(µs)の時間スケールでタンパク質の動作画像をキャプチャした。氷が溶けて液体になると、「調整可能な」時間ウインドウが開き、タンパク質が、細胞内の自然な液体状態と同じように動くように誘導される。

同じアプローチを使用して、研究チームは現在、比類のない精度で急速なウイルスの動きをキャプチャするためにその技術を使用している。チームは、感染サイクルに不可欠な大振幅運動で知られる植物ウイルス、ササゲ退緑斑紋ウイルス(CCMV)に焦点を当てた。pHの変化により、ウイルスのキャプシド(保護シェル)が急速に膨張することが知られており、新技術を使用して、チームはこのプロセスの実際のメカニズムを観察することができた。

「これは、ウイルスが細胞に感染したときに発生するキャプシドの拡大である。このプロセスを逆に、つまりキャプシドの収縮を研究したことで、キャプシドのメカニズムをより簡単に解明することができた」(Ulrich Lorenz)。

新しいイメージング技術は驚異的に機能した。「このナノスケールマシンの機能とメカニズムの極めて詳細な画像が得られた。これには、キャプシドタンパク質の様々な動きが異なる速度で発生するという驚くべき洞察が含まれている。また、大きな振幅の動きであるにもかかわらず、収縮は非常に速く、ウイルスが伸長した状態は、突然放出されて収縮する引き伸ばされたバネに似ていることもわかった」とLorenzはコメントしている。

ウイルス以外にも、新しいマイクロ秒時間分解cryo-EM技術は、タンパク質が機能する様子を観察するという、より広範な課題に対処する。「われわれは、この方法が自然界で実際に発生するプロセスを観察するために使用できることを初めて示した。この種の観察を行うことができる他の方法は存在しない。実験を幅広いシステムに拡張することが可能になれば、われわれの方法はタンパク質がどのように機能するかについての理解に革命をもたらす可能性を秘めている」とLorenzは話している。