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一次元モット絶縁体において励起子の量子干渉によるテラヘルツ放射に成功

October, 19, 2023, 東京--東京大学大学院新領域創成科学研究科の宮本辰也助教(研究当時)、尤仕佳大学院生、岡本博教授らの研究グループは、一次元モット絶縁体である[Ni(chxn)2Br]Br2(chxn:シクロヘキサンジアミン)において、三次の非線形光学効果を利用して、位相が可変なテラヘルツパルスを高効率に発生させることに成功した。

テラヘルツパルスとは、周波数が約1THz(10^12Hz)、周期が約1ピコ秒(10^-12秒)であり、ほぼ1周期だけ振動する電磁波を指す。このTHzパルスは、固体中の素励起を調べるために幅広く利用されている。最近では、THzパルスの高強度化が可能となり、それを用いた固体の物性制御に関する研究も盛んに行われるようになってきた。THzパルスは、通常、反転対称性が無い透明な結晶にフェムト秒パルスを照射したときに生じる二次の非線形光学効果を利用して発生させる。しかし、この方法では、発生するTHzパルスの位相や周波数を制御することが難しいという問題があった。

研究グループは、[Ni(chxn)2Br]Br2に2色のフェムト秒パルスを照射して奇と偶の対称性を持つ2つの励起子を生成すると、これらの励起子間に量子干渉が起こり、強いTHzパルスが発生することを見出した。この手法において、2色のフェムト秒パルスの周波数を適切に選択し、それらを試料に入射する時刻の差をアト秒の精度で調整することにより、THzパルスの位相、周波数、振幅を精密に制御できることを実証した。さらに、この手法を利用して、一次元モット絶縁体の励起子の位相緩和時間を評価し、その値が通常の無機半導体と比較して極めて短いことを明らかにした。

この手法を用いて得られる位相可変なTHzツパルスは、固体の電子状態や物性を高速に制御するための新しい励起光源として利用されることが期待される。

研究の成果は2023年10月13日付けで、米国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。
(詳細は、https://www.k.u-tokyo.ac.jp)