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Science/Research 詳細

昆虫の神経網における電気シナプス、飛行を制御する機能

September, 21, 2023, Berlin--マインツ大学(Mainz University)とベルリンのフンボルト大学(Humboldt-Universität zu Berlin)の研究者は、これまで知られていなかった電気シナプスの機能を明らかにし、昆虫の羽ばたき周波数を調節するために使用される神経回路を解読した。

Johannes Gutenberg University Mainz (JGU)の実験神経生物学者とベルリンフンボルト大学の理論生物学者チームは、何十年にもわたって科学者を困惑させてきた謎を解くことに成功した。チームは飛行を制御する昆虫の神経系における電気的活動の性質を究明することができた。Natureに掲載された論文で、チームはショウジョウバエが飛行中に利用する電気シナプスのこれまで知られていなかった機能について報告している。

ショウジョウバエは、前進するために毎秒約200回羽ばたく。他の小さな昆虫は、毎秒1,000の羽ばたきさえも操る。われわれが一般的に蚊に関連付ける迷惑な高音のブーンという音を生成するのは、この高周波数の翼の鼓動である。すべての昆虫は、体のサイズが小さいために粘性のある媒体として機能する空気中で「立ち往生」しないように、一定の頻度で羽ばたかなければならない。この目的のために、昆虫の世界で広く使用されている巧妙な戦略を昆虫は採用している。これには、翅を上げ下げする拮抗筋の相互伸張活性化を必要とする。このシステムは高周波振動ができるため、推進に必要な高い羽ばたきを生成する。運動ニューロンは翅の速度に追いつくことができないため、各ニューロンは翅の筋肉を制御する電気パルスを生成し、翅の筋肉を約20回ごとに制御する。これらのパルスは他のニューロンの活動と正確に調整されている。翅の鼓動周波数を調節する運動ニューロンに特別な活動パターンが生成される。各ニューロンは一定の速度で発火するが、他のニューロンと同時には発火しない。それぞれが発火する間隔は決まっている。ショウジョウバエにこの種の神経活動パターンが生じることは1970年代から知られていたが、根底にある制御メカニズムの説明はなかった。

昆虫の飛翔を調節する神経回路
ドイツ研究財団(German Research Foundation)が資金提供するロバスト回路研究ユニット(RobustCircuit Research Unit)5289で協力し、ヨハネスグーテンベルク大学マインツ(Johannes Gutenberg University Mainz)とベルリンフンボルト大学(Humboldt-Universität zu Berlin)の研究チームは、ついにパズルの解を見つけることができた。「ショウジョウバエの翅の動きは、ごく少数のニューロンとシナプスのみで構成される小型化された回路ソリューションによって制御されている」と、JGU生物学部のCarsten Duch教授は説明している。これはショウジョウバエだけの場合ではない可能性が非常に高い。研究チームは、同様の推進方法に依存する60万種以上の既知の昆虫もこの種の神経回路を採用していると推測している。

ショウジョウバエメラノガスターは、その神経回路の様々な構成要素を遺伝的に操作することが可能であるため、神経生物学の分野での研究に理想的な対象である。個々のシナプスのオンとオフを切り替えることができ、個々のニューロンの活動も直接影響を受ける可能性がある。この場合、研究チームはこれらの遺伝的ツールの組み合わせを使用して、回路内のニューロンの活動と電気的特性を測定した。したがって、飛行パタン生成に関与する神経回路のすべての細胞とシナプス相互作用を特定することができた。その結果、飛行を調節するニューラルネットワークは、電気的シナプスのみを介して互いに通信する少数のニューロンで構成されていることがわかった。

中枢神経系による情報処理の新概念
以前は、1つのニューロンが発火すると、抑制性神経伝達物質が飛行ネットワークのニューロン間に放出され、これらが同時に発火するのを防ぐと考えられていた。実験と数学的モデリングを使用して、研究チームは、神経伝達物質の存在なしに、神経活動が電気的に直接制御されている場合にも、このようなパルス発生の逐次分布が発生する可能性があることを示すことができた。次に、ニューロンは特別な種類のパルスを生成し、特にそれらが活動したばかりの場合は、互いに密接に「耳を傾け」(listen)る。

数学的分析は、これが「通常の」パルスでは不可能であると予測した。したがって、純粋に電気的形態のニューロン間の伝達が、この配列化された発火パタンをもたらす可能性は低いと考えられる。この理論仮説を実験的に検証するために、ネットワークのニューロン内の特定のイオンチャネルが操作された。予想通り、飛行回路の活動パターンは、数学モデルが予測したとおりに同期した。この実験的操作は、飛行中に生成される電力に大きな変動を引き起こした。したがって、神経回路の電気的シナプスによって決定される活動パターンの非同期化は、飛行筋が一貫した電力出力を生成できるようにするために必要であることは明らかである。

マインツとベルリンに拠点を置くチームの発見は、電気シナプスによる相互接続が実際にニューロンの同期活動をもたらすと以前に考えられていたことを考えると、特に驚くべきものである。ここで検出された電気シナプスによって生成された活動パターンは、まだ説明されていない神経系による情報処理の形態が存在する可能性があることを示している。同じメカニズムは、他の何千もの昆虫種だけでなく、電気シナプスの目的がまだ完全には理解されていない人間の脳でも役割を果たす可能性がある。