July, 21, 2023, 東京--東京大学大学院理学系研究科物理学専攻およびフォトンサイエンス研究機構の石金元気大学院生、戸田圭一郎特任研究員、井手口拓郎准教授らのグループは、従来の中赤外フォトサーマル顕微鏡の信号対雑音比(SNR)を数百倍向上させ、サブマイクロメートルの空間分解能で1秒間に50枚の画像を取得できる、世界最速の単一細胞中赤外イメージングを実現した。
SNRの大幅な向上は、高強度中赤外パルスレーザによる約60倍の信号増大と、定量位相顕微鏡に高飽和電荷量カメラを用いたことによる約7分の1のノイズ低減という2点の改善に由来する。
実現した時空間分解能は、分子振動顕微鏡の主流である最先端のラマン顕微鏡に匹敵する。ラマン顕微鏡と相補的な分子振動情報を取得できる中赤外顕微鏡の技術進展は、分子振動を用いた単一細胞イメージングに新たな応用をもたらす。例えば、細胞内のタンパク質の二次構造解析や、細胞内での液-液相分離の観測、細胞内水分子の解析など、従来技術では計測が困難であった現象の研究への利用が期待される。
〈研究の内容〉
研究グループは、高強度中赤外パルスレーザと高飽和電荷量カメラを用いた低ノイズ定量位相顕微鏡を組み合わせることで、従来の中赤外フォトサーマル顕微鏡と比較して信号対雑音比を数百倍向上させ、1秒間に50枚の単一細胞画像を取得可能な中赤外イメージングを初めて実現した。高強度中赤外パルス光は、光パラメトリック発振器を用いて生成し、従来のフォトサーマル顕微鏡で使用される中赤外量子カスケードレーザ(QCL)の場合と比較して約60倍大きな位相変化を実現した。また、定量位相顕微鏡の位相ノイズは光子数不確定性によって決まることが多いため、この位相ノイズを低減するためには、より多くの光子をカメラで検出することが望まれる。我々は通常のカメラが記録できる光子数の約100倍を記録可能な高飽和電荷量カメラを導入し、位相ノイズを約7分の1に低減させた。
これらの要素を組み合わせた高感度中赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡を用いて、細胞内の脂質や水の分子振動画像を1秒間に50枚の速度で撮影した。
(詳細は、http://www.s.u-tokyo.ac.jp/)