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Science/Research 詳細

腸内細菌の変化、アルツハイマー病の初期兆候

July, 14, 2023, Washington--セントルイス・ワシントン大学医科大学院の研究者によると、アルツハイマー病の初期段階(脳の変化は始まっているが、認知症状は現れていない時期)にある人々は、健康な人の腸内細菌とは異なるさまざまな細菌を腸内に抱えているという。

『Science Translational Medicine』に発表された研究成果は、腸内細菌群衆を分析して認知症発症のリスクが高い人を特定し、認知機能の低下を防ぐためにマイクロバイオームを変化させる予防治療を設計する可能性を切り開く。

「腸が脳に影響を与えているのか、脳が腸に影響を与えているのかはまだ分かっていないが、いずれの場合でもこの関連性を知ることには価値がある」と共同責任著者で、Laboratory and Genomic MedicineのConan教授であるGautam Dantasはコメントしている。「腸内マイクロバイオームの変化は、脳の病理学的変化を読み取っているだけの可能性がある。もう1つの選択肢は、腸内マイクロバイオームが、アルツハイマー病の一因なっているというもので、その場合は、プロバイオティクスや糞便の移送によって腸内マイクロバイオームを変化させることが、病気の経過を変えるのに役立つ可能性がある」。

研究者は、症候性アルツハイマー病患者の腸内マイクロバイオームが、同年齢の健康な人々の腸内マイクロバイオームと異なることを知っていた。しかし、神経学のDaniel J. Brennan教授であるAncesは、「重大な発症前の段階の人の腸内マイクロバイオームをまだ誰も調べていない」とDantasに話した。Ancesは、アルツハイマー病患者の治療と研究をしており、Dantasは、腸内マイクロバイオームの専門家である。

「人々に認知症状が現れるまでに、多くの場合、不可逆的な変化が生じている。しかし、病気の進行の非常に早い段階で診断できるれば、それが治療に効果的に介入する最適な時期となる」ともう一人の共同責任著者であるAncesは話している。

20年以上続くこともあるアルツハイマー病の初期段階では、アルツハイマー病の患者は脳内にアミロイドβとタウというタンパク質の塊を集積するが、神経変性や認知機能低下の兆候は示さない。

研究者らは、ボランティアで研究に参加した参加者を評価した。全参加者は認知的に正常だった。この研究の一環として、参加者は便、血液、脳脊髄液のサンプルを提出し、食事日記をつけ、PETとMRI脳スキャンを受けた。

すでにアルツハイマー病の初期段階にある参加者と健康な参加者を区別するために、研究チームは脳スキャンと脳脊髄液によるアミロイドβとタウの蓄積の兆候を探した。164名の参加者のうち、約1/3(49名)に、初期アルツハイマー病の兆候があった。

分析の結果、健康な人々と前臨床アルツハイマー病患者では、基本的に同じ食事をしているにも関わらず、存在する細菌の種類とそれらの細菌が関与する生物学的プロセスの点で、腸内細菌が著しく異なることが明らかになった。こうした違いは、認知症状が現れる前に上昇するアミロイドとタオのレベルと相関しているが、認知能力が低下し始めるころに明らかになる神経変性とは相関していなかった。こうした違いは、初期のアルツハイマー病のスクリーニングに使用できる可能性があると研究チームは考えている。

「スクリーニングツールとして腸内マイクロバイオームを利用することの良い点は、それが簡素で簡単であることだ」とAncesは言う。「いつか、個人が便サンプルを提供して、アルツハイマー病を発症するリスクが高まっているかどうかを知ることができるようになるかもしれない。脳スキャンや脊髄穿刺に比べて、人口の大部分、特に過小評価されているグループにとってはるかに簡単で侵襲性が低く利用しやすい」。

研究チームは、腸内マイクロバイオームの違いが、初期のアルツハイマー病に見られる脳の変化の原因なのか、結果なのかを解明することを目的とした5年間の追跡研究を始めた。

「原因となる関係があるとすれば、その関連性は炎症である可能性が最も高いだろう」とDantasは言う。同氏は、病理学と免疫学、生物医工学、分子微生物学、小児科の教授でもある。「細菌は、驚くべき化学工場であり、その代謝物質の一部は腸内の炎症に影響を与えたり、さらには血流に入り込み、全身の免疫システムに影響を与える可能性がある。現時点では、これらすべては推測の域を出ないが、因果関係があることが判明すれば、「善玉菌」の増殖を促進するか、「悪玉菌」を除去することで、アルツハイマー病の症状の進行を遅らせたり、さらには阻止できるのかどうかを考え始めることができる」。

(詳細は、https://medicine.wustl.edu)