July, 6, 2023, Lausanne--EPFLの研究者は、ルー・ゲーリック病(ALS)や他の神経疾患の患者の脳に見つかる病的タンパク質凝集体の重要な特徴を再現し、根底にあるメカニズムを洞察し、新たな治療に有望な道を提供する。
アルツハイマー病、パーキンソン病、ルー・ゲーリック病(ALS)などのいくつかの神経変性疾患は、タンパク質が迷走し凝集してフィブリルになり、特定の脳領域に蓄積することで引き起こされる。今回、EPFLの研究者は、凝集体が病的になり、脳の様々な領域に広がる新しいメカニズムを発見した。主犯は、非常に不安定なタンパク質TDP-43である。研究者は、脳に形成されるTDP-43凝集体が処理されて「粘着性」のコアを示すまでは暗黙の病原性を持たないことを発見した。研究成果は、Nature Neuroscienceに発表されている。
タンパク質TDP-43の凝集体は、ALSや他の神経変性疾患の顕著な特徴である。いったん形成されると、TDP-43凝集体は、脳の様々な領域に広がり、そこで正常な機能的TDP-43を壊す。しかし、最初に何がTDP-43凝集体を引き起こすか。その病原性の影響を解き放つメカニズムに何が関与しているか。この知識ギャップが、TDP-43凝集体を阻止し、その有毒性を中和する効果的な薬剤の開発を阻んでいる。
切断によって病原性の効果を解放
米ペンシルベニア大学の科学者と共同で行われたこの最新のEPFLの研究で、Senthil Kumar博士とHilal Lashuel教授は、試験管内で調製された、または、または死後の患者から分離されたTDP-43凝集体の病原性の影響を開放する新たなメカニズムを発見した。これらTDP-43凝集体の表面は、最初に酵素によって切断されなければならない。これは、正常なTDP-43タンパク質を引き寄せ、より多くの凝集体の形成を誘発する隠れた粘着性の表面を露出させるためである。
「この発見は、ALS患者の脳に見られるものと形態学的および構造的特徴を共有するフィブリルを研究室で生成する新しい方法を開発するわれわれの能力によって促進された」と論文の筆頭著者、Senthil T. Kumar博士は説明している。
電子顕微鏡で観察する前にサンプルを極低温で凍結させるクライオ電子顕微鏡を使い、研究者らはTDP-43フィラメントが、より大きなフィラメント内に埋もれており、アクセスできない、つまりまだ病的ではないことを示した。それらがタンパク質の球状部分で覆われているからである。これらのフィラメントは埋もれている限り、ステルスモードで存在し、他の分子やタンパク質にはアクセスできない。言い方を換えると、TDP-43は、その外被が切断されて、「粘着性のある」内側のフィラメントが露出すると病的になるが、外被が無傷の場合はステルスモードのままである。
「われわれの研究成果は、TDP-43フィラメントの切断に関与する酵素を阻害することが、TDP-43凝集体の形成を遅らせ、脳内の拡散を防ぎ、それによって病気の進行を遅らせるための実行可能な治療戦略であることを示唆している。次のステップとして、われわれはこれら酵素を同定し、その活性を阻害することでALSの細胞モデルおよび動物モデルにおけるTDP-43の凝集と神経変性を阻止できるかどうかを判断する予定である」と研究を主導した研究室を運営しているEPFLのHilal Lashuel教授は話している。
その新しい成果は、ALSをはじめとする神経変性疾患の早期診断の新しいツールや方法の開発でも意味がある。球状保護層が、TDP-43フィブリルの検出が非常に難しい理由の説明になるかもしれない。脳内の他のタンパク質と疑わしいものによるフィブリル形成を検出、モニタするために一般に使用されている標準的な方法と色素は、TDP-43フィブリルを検出できないことがよくあった。「これは無傷のTDP-43フィブリルを使って造影剤を開発することが極めて困難である理由も説明している。早期診断、病気の進行モニタ、新しい治療の有効性評価にはそのような造影剤は切実に求められている」(Dr. Kumar)。
全長タンパク質研究の重要性
TDP-43は、非常に不安定なタンパク質であり、直ぐに様々な構造に凝集するので、再現可能な方法で病理に似たTDP-43凝集を生成することが難しくなる。このため多くの研究者は、タンパク質小片、特にその凝集促進に関与する領域からの特殊小片で、取り組まざるを得ない。「研究室で準備したTDP-43フィブリスのコアを形成するタンパク質小片の構造を決定したとき、われわれは、患者の脳から分離したTDP-43フィブリスのものとは違う構造を得た。ただし、これらの小片のアミノ酸配列は、実際的には同じである」(Dr. Kumar)。
「われわれの研究成果は、この凝集しやすい領域の側面にあるタンパク質配列が、最終構造決定で重要な役割を担っていることを証明している。また、脳におけるTDP-43凝集体の特性の再現が、全長のたんぱく質を」扱う必要があることを実証している」(Hilal Lashuel)。「これは、われわれが研究室で開発する薬剤、抗体、造影剤が、患者の脳内で疾患に関するTDP-43凝集体に関わる可能性が高いことを示している」。
研究チームは、患者の脳のフィブリルの配列と同じコア配列をもつTDP-43フィブリルを生成できることを示した。「しかし、われわれはまだ、マスクされていないフィブリルコアが同じ構造を持っているか確認しなければならない」とHilal Lashuelは、語っている。「これを示すと、次にわれわれは、試験管で実際の病理を作り出せる唯一のシステムを手にすることになる。これは、病気にリンクした突然変異やタンパク質の改変が、TDP-43凝集体にどう影響するかを理解する上で大きな意味がある。また、TDP-43凝集体を阻止する新しい薬剤の開発を促進し、その病原性を無化し、TDP-43凝集体との結合を阻止する薬剤の開発を促進し、脳におけるその検出を容易にする。
(詳細は、https://actu.epfl.ch)