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新材料が効率的な磁気ベースコンピュータメモリを可能に

June, 30, 2023, Stanford--過去10年、ますます複雑な人工知能(AI)の導入により、コンピューティングパワー需要が飛躍的に上昇した。新しい、エネルギー効率のよいハードウエア設計では、この需要への対処に役立ち、コンピューティングエネルギー利用を減らし、より高速の処理をサポートし、AIトレーニングをデバイス自体の内部で行うことができるようになる。

スタンフォード大学工学部Leland T. Edwards 教授、Shan Wangは、「わたしの考えでは、われわれはすでにインターネット時代からAI時代へ移行している。AIがエッジで、家のコンピュータ、電話、スマートウオッチで局所的にトレーニングし、心臓発作の認識、会話の認識などを可能にする。そのために、われわれは、非常に高速の不揮発性メモリを必要としている」とコメントしている。

Wangとチームは、最近、新しいタイプのメモリを商用化に近づける材料を見つけた。Nature Materialsに発表された論文で研究チームは、マンガンパラシウム3という金属化合物の薄い層が、電子スピン方向でデータを蓄積するワーキングメモリの形を促進するのに必要な特性をもつことを実証した。このメモリ蓄積法、スピン軌道トルク磁気抵抗ランダムアクセスメモリ、SOT-MRAMは、現在の方法よりも迅速かつ効率的にデータを蓄積する。現在の方法は、電荷を利用してデータを蓄積し、そのデータを維持するために連続的にパワー入力を必要とする。

「われわれは、将来のエネルギー効率のよい蓄積素子のための基本構成要素を提供した。非常に基礎的であるが、ブレイクスルーである」。

電子スピンを利用
SOT-MRAMは、スピンという電子の固有の特性に依存している。電子は荷電粒子なので、回転により電子は微小磁石、その軸に沿って偏光した磁石になる。電子がスピンの方向を変えると、磁石の南北極性が変わる。研究者は、その磁気の上下方向、磁気双極子モーメントを利用する。これらは、コンピュータデータのビットやバイトを構成する1sと0sである。

SOT-MRAMでは、一つの材料(SOT層)を流れる電流が特別なスピン方向を生み出す。これらの電子の動きは、そのスピン方向と組み合わされて、トルクを生み出す。これが、隣接磁気材料における電子のスピン方向、関連する磁気双極子モメントを変えることができる。適切な材料により、磁気データの蓄積は、SOT層における電流の方向の変更と同様に簡単である。

しかし、適切なSOT材料を見つけることは容易ではない。ハードウエアの設計法により、電子スピンの方向がZー方向でアップまたはダウンに向くとき、データがより高密度に保存できる。残念ながらほとんどの材料は、電流がXー方向に流れると、yー方向で電子スピンを二極化させる。

「従来の材料は、yー方向にのみスピンを生成する、つまりzー方向でスイッチングを起こすには外部電界が必要になる。エネルギーを下げ、メモリの高密度化の目的でわれわれは、外部磁界なしでこのスイッチングを実現できるようにしたい」とWangラボのポスドク研究者、Fen Xueは、話している。

研究チームは、マンガンパラシウム3が、チームが必要とする特性を持っていることを見出した。その材料は、どんな方向にもスピンを生成できる。その内部構造が、全ての電子を特定の方向に強いる結晶対称性を欠いているからである。マンガンパラシウム3を使い、チームは、yーとzー軸の両方に、外部磁界なしで磁化スイッチングを実証することができた。マニュスクリプトで実証されていないが、x-方向磁化も外部磁界なしでスイッチ可能である。

「われわれは、他の従来型材料と同じ入力電流を持つが、今では3つの異なる方向のスピンを持つ。アプリケーションにより、われわれは、望むいかなる方向にも磁化を制御することができる」と論文の筆頭著者、ポスドク研究者として研究を行った、Mahendra DCはコメントしている。

DCとWangは、このような進歩を可能にした功績を学際的、多研究機関のの協力によるものであるとしている。「予想外のスピン方向を予測するためにネブラスカ大学、Evgeny Tsymbalラボが計算をリードし、National Institute of Standards and TechnologyのJulie Borchersラボが計測とモデリングを主導し、マンガンパラジウム3内の複雑な微細構造を明らかにした」(Wang)。

製造可能性
対称性破壊構造に加えて、マンガンパラジウム3は、それがSOT-MRAMアプリケーションの優れた候補となる複数の他の特性をもっている。例えば、エレクトロニクスが経験する必要があるポストアニーリングプロセスで生存し、その特性を維持できる。

「ポストアニーリングは、エレクトロニクスは400℃、30分を必要する。こうしたデバイスでは、新しい材料の課題の一つであり、マンガンパラジウム3は、それに対処できる」(DC)。

また、マンガンパラジウム3の層は、マグネトロンスパッタリングというプロセスを使って作られる。これは、他のメモリーストレージハードウエアでもすでに使用されている技術である。

「この種の材料に新しいツール、新しい技術は不要である。それを堆積するためにテクスチャード基板、特別な条件を必要としない」(Xue)。

結果は、われわれの増大するコンピューティング要件を満たすのに役立つ新しい特性のみならず、現在の製造技術にスムースに移行する材料である。研究チームは、すでに、マンガンパラジウム3を使って実際のデバイスに組み込むことになるSOT-MRAMプロトタイプに取り組んでいる。

「現在の技術では、壁にぶつかっている。だから、われわれの手にある他のオプションを考える必要がある」とDCは、話している。