June, 7, 2023, つくば--物質・材料研究機構(NIMS)は、鏡映対称性と時間反転対称性を有するハニカム構造のフォトニック結晶の中で、光渦光源に誘起された多数の小さな光渦が干渉し合い、その結果光源の周りに逆向きの大きな光渦を形成する不思議な光渦伝搬様式を発見した。
この新奇現象が、フォトニック結晶のトポロジカル特性と深く関連することが明らかになったので、今後の革新的な光機能材料開発に寄与することが期待されます。
近年物質のトポロジーが盛んに研究され、新規量子特性探索の重要なプラットフォームになっている。特に、小さい光渦を作りながらフォトニック結晶の縁に沿って流れ、鋭角をなす経路や欠陥からの散乱を受けない光伝搬が発見され、光集積回路技術の革新が期待されている。中でもシリコン等の誘電体を微細に加工して造形したハニカム構造のフォトニック結晶にトポロジカル光特性を発現させるアプローチは、既存の半導体フォトニクス技術との親和性にも優れ、注目を集めている。一方、トポロジカル特性がフォトニック結晶内部での光伝搬にどのような影響を与えるかは解明されていなかった。
今回、研究チームは、鏡映対称性と時間反転対称性を有するハニカム構造のトポロジカルフォトニック結晶において、光渦光源が最近接の単位胞に同じ向きの光渦を誘起し、それらが逐次遠方の単位胞へ伝搬しながら干渉し合い、その結果光源の周りに逆向きの大きな光渦が形成される、新奇光渦伝搬様式を発見した。渦流の反転は、構造による鏡映対称性の破れか、磁化による時間反転対称性の破れで発生することが知られているが、研究チームは今回発見された現象が、ハニカム構造のトポロジカルフォトニック結晶のディラック周波数分散関係に由来することを突き止めた。
今回の研究はミリ波で実験を行ったが、類似の現象は光通信帯域や可視光域でも期待され、キラルな物質の検出を目的とした顕微円二色性分散計やセンサとフィルタ、多重特異点光渦を利用した高精度広域顕微技術に応用できる。また、面発光レーザの発光制御に利用すれば、光ピンセットや光スパナ等先端的なナノレーザ技術の発展への寄与も期待される。
研究では、NIMSナノアーキテクトニクス材料研究センター (MANA) 胡暁グループリーダー、王星翔NIMSジュニア研究員が理論を担当し、中国同済大学Hong CHEN教授の研究チームが実験を担当した。
研究成果は、2023年6月2日18時 (日本時間) に、Nature Communications誌にてオンライン出版された。